印。
証。
証拠。
目に見える何か。
そういったものがあればいいとさえ蓉司は思ったのは刹那のこと。
そういったものがないからこそ、尊い何かがあるのだとわかっている。
触れ合った証。
名残。
あってもなくても、またきっと同じように抱き合う。それなら、やはりそんなものなどなくていいのだ。
納得をし、自分の腕に抱きしめている哲雄を眺める。寝息も立てずに眠る哲雄は、起きている時よりは年相応に見えた。
哲雄は、どうだろう。
欲しいとねだるタイプではないが、実際のところはどう思っているのか。
この、ふたりの関係に何か証めいたものが欲しいと思っていたりするのか。
答えが出ないのは、蓉司が起きている哲雄に問いを発しないからで。意識がある時に問わねば答えなど返ってくるはずもないことは充分承知している。
つまり――
蓉司は暇を持て余していた。
普段見られない寝顔は充分に堪能したし、かといってぐっすり寝ている哲雄にイタズラするのは気が引けた。
もう少し、眠る努力をしてみようか。
目を瞑り、哲雄の匂いを吸い込む。嗅ぐだけで心は落ち着いた。
今こうしていられることがすべて。
穏やかでいられる時間を大切にできればいい。
目に見えなくても、感じられることができるのなら、それで。
漣のようにやってくる眠気に飲み込まれながら、蓉司は哲雄をぎゅっと抱きしめた。