「まったく……」
テーブルにだらしなく突っ伏し、正体をなくしてしまったカイルに、ゲオルグは溜息を吐いた。
「とことん付き合うと言ったのはおまえだろうに」
揶揄を含んだ言葉に苦味はない。
うーうー、と意味のない言葉を呻くカイルの、金の髪を軽く掬って指先で弄ぶ。さらりとした感触が心地好く、何度も梳いた。
起きる気配はない。
「仕方ないな」
男相手にいつまでもそうしていても不毛だ。わかっていたから立ち上がるとカイルの体に手をかけ、持ち上げる。
傍のベッドに運んでしまえば、後はそのままで良いだろう。カイルは非番だったから騎士服ではない。服の皺を気にする必要もなかった。
ゲオルグは自室のベッドにカイルを横たえると、その寝顔を見下ろす。
軽薄な騎士と貴族たちに噂されるカイルは、それだけではない。充分に男前であることは周知のことだし、女好きも自他共に認めることではあるが、剣や魔法の腕前も相当の物だ。
魔法はゲオルグの不得手とするところだが、繰り出す剣に魔法を絡めて攻撃する彼独自の戦い方は、おそらく誰に教えられたものでもない。カイル自身で編み出したものだろう。
そんな戦い方をする人間はそうそうおらず、時には手合わせしているゲオルグを手こずらせてくれる。楽しいと思えるのは、生と死のギリギリのラインが垣間見えるせいかもしれない。
ザハークのように、型に嵌められた剣でない分、大きな隙が生じることもある。弱点らしい弱点といえばそれくらいか。だがゲオルグの手ほどきにより、その隙も最初の頃に比べれば格段に少なくなっていた。
面白い男だ。
最初の感想はそれに尽きる。
それが、少しずつ形を変えていったのはどうしてだろう。
手を伸ばし、目元に掛かっていた髪を払ってやる。そんなことをしなくてもいいとわかっているが、触れたいと思う衝動を抑えるのはなかなかに困難だ。
「あまり隙を見せるなよ」
囁いて、唇を掠める。
酔っ払いの介抱をしてやるのだ、これくらいは安い物だろう。とはいえ、カイルが目を覚ましていたら魔法の一発でも食らいかねない。意識を手放しているのをいいことに、とは言葉が悪いが、この程度で済ませられることに感謝してほしい。
一方的な言い訳だとわかっていながら、ゲオルグは部屋着に着替えるとソファに横たわった。ベッドは狭く、大の男が二人も寝転ぶスペースはない。ソファの寝心地はいまいちだが、床に寝るよりはマシだと言い聞かせ、目を閉じた。