幾度もの「いってきます」と「いってらっしゃい」、「ただいま」と「おかえり」。
何度も繰り返してきたから、いつまでも続くのが当たり前のように思えていた。
いつまでも――そう、まるで永遠に続くのではないかと。
永遠なんてないと知っていたのに。
そもそも、あの日から自分が存在していられたことが奇跡のようだと蓉司は思う。存在というものがどういう定義で、蓉司がその定義にはまるかどうかもわからないけれど。
もし自分の存在というものが哲雄にすら感じられなくなって、消えてしまう日が来たとしたら。
何か残せるものはあるだろうか。
残るものがあればいいのだけれど……。
今日はずいぶん感傷的になっている。
言っていない言葉や言わずにいる言葉もたくさんあるけれど、それでも哲雄の中に何かが残ればいい。
残らなくても、哲雄がいればいい。
いい天気だ。
本当は外に出たいけれど、そうすると本当に空にとろけてしまいそうで、怖くなる。
今はまだその時ではないと、何かが教えてくれる。
だから――蓉司はベランダの窓を閉め、ぼんやりとする。
いつものように、哲雄を待つだけの時間を過ごした。