ふう、と空に向けて吐いた息は三日月に当たって弾けた。
空に向けてグラスを掲げ、そのまま口を付けて中身を飲み干す。
仲間にも被害が出た夜、一人きりの甲板で行う、恒例行事。
小さな足音に気付くが、そちらを振り向くことはせず、空になったグラスを持ち上げて振る。間近まで寄った足音が止まると、グラスが酒で満たされた。
「今日は冷え込む。風邪を引くなよ」
「誰に言ってるんだ、大丈夫に決まってるだろ」
「それならいいんだがな」
軽く肩を竦め、シャンクスの隣にどかりと座り込む。口に銜えた煙草の煙が細くたなびく。まるで弔いの狼煙だ。そんな風に感じる程度には、感傷的になっている自覚があった。
互いのグラスに酒を酌み、言葉少なに杯を重ねる。
陸に着くまで数日かかるため、土に返してやることはできなかった。だが海に還ることはできたのだから、いかにも海賊らしい。本人の意志は量れないが、満足してくれたことを祈るしかない。
土か、海か。
どちらかと問われたら、どちらと答えようか。
戯れ言だとわかっていた。そんなの、「その時にならないとわからない」に決まっている。いつ、どこでどんなふうにくたばるとも知れないのだから。
「なあ」
「ん?」
「おまえは……」
海か。陸か。
そのどちらでも必ず応えようと、真摯な気持ちで聞いたのに、返されたのは呆れだった。
「あんたより先に逝けってのか」
ふざけるな、とまで言われてしまった。
真面目に聞いたつもりだったが、質問が悪かったか。
悪かったよと返したが、そういえばこの男が死ぬところを空想したこともなかったなと気付いた。無論、己が死ぬところもだ。
いつかは誰もが死ぬ。
せめて満足いく死に方ができればいいがとも思うが、どんな死に方なら満足するのかわからず、結局問題を放り出した。