28/増えてく秘密

 姉にすら言えない秘密ができるなど、思いもよらないことだった。

 中庭にある、聖堂。
 授業でしか立ち入らないそこは、外の空気とは異質な静謐に包まれている。いつも休憩時間には騒がしいクラスメイトたちも、何故かここで授業を受ける時には神妙にしていた。蓉司にしても同じだ。
 だが内心はといえば、敬虔さとは程遠い。
 教会は、宗派によっては信徒の秘密を告白する部屋――懺悔室があるらしい。いっそそこで何もかもを告白してしまえたら。いや、神父だろうと牧師だろうと相手は人間。そこから話が広まらないとも限らない。かといって、相談できるような人間はいないのだ。
 蓉司が今、胸のうちに抱えている秘密は、煩悶や疑問の類いによく似ている。
 秘密を共有しているのは、蓉司以外にはひとりだけ。
「…………」
 ちらりと、視線を斜め前の席へやる。
 城沼哲雄。
 眼鏡をかけた横顔は、壁一枚隔てているような錯覚を持たせる。学校の外では、その壁が薄れていることを蓉司は知っていた。
 そんな些細な秘密が積み重なったもの、とも言える。
 哲雄から視線を外すと、軽く目を瞑った。
 やはり、どんな形であれ姉に相談してみようかという気になった。仔細を話すわけにはいかないから、うまく伝わるかはわからないけれど。
 そうでなければ、哲雄にどう接していいのかもわからない。

 秘密がある。

 誰にも言えない秘密が。

 いつもと変わらぬ様子の哲雄を少しだけ憎らしく思っていると、授業が終わるチャイムが鳴った。
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