姉にすら言えない秘密ができるなど、思いもよらないことだった。
中庭にある、聖堂。
授業でしか立ち入らないそこは、外の空気とは異質な静謐に包まれている。いつも休憩時間には騒がしいクラスメイトたちも、何故かここで授業を受ける時には神妙にしていた。蓉司にしても同じだ。
だが内心はといえば、敬虔さとは程遠い。
教会は、宗派によっては信徒の秘密を告白する部屋――懺悔室があるらしい。いっそそこで何もかもを告白してしまえたら。いや、神父だろうと牧師だろうと相手は人間。そこから話が広まらないとも限らない。かといって、相談できるような人間はいないのだ。
蓉司が今、胸のうちに抱えている秘密は、煩悶や疑問の類いによく似ている。
秘密を共有しているのは、蓉司以外にはひとりだけ。
「…………」
ちらりと、視線を斜め前の席へやる。
城沼哲雄。
眼鏡をかけた横顔は、壁一枚隔てているような錯覚を持たせる。学校の外では、その壁が薄れていることを蓉司は知っていた。
そんな些細な秘密が積み重なったもの、とも言える。
哲雄から視線を外すと、軽く目を瞑った。
やはり、どんな形であれ姉に相談してみようかという気になった。仔細を話すわけにはいかないから、うまく伝わるかはわからないけれど。
そうでなければ、哲雄にどう接していいのかもわからない。
秘密がある。
誰にも言えない秘密が。
いつもと変わらぬ様子の哲雄を少しだけ憎らしく思っていると、授業が終わるチャイムが鳴った。