19/手紙のような告白

 振り絞った声は無様に震え、それがいっそう有栖川をみじめにさせた。江神が呆けたような表情をしたのも、羞恥に拍車を掛ける。
「……アリス。今、なんて……?」
「だから……三日前に、江神さんに手紙書いたの、僕なんです」
「……あの手紙は、俺の記憶に間違いがなければラブレターと言われる類の手紙やったように思うけど」
「はい」
「俺へのラブレター?」
「……はい」
「…………」
 握りしめた拳に力が入る。
 江神の沈黙にどれほど耐えられるか、自分でもわからない。できることなら今すぐこの場から走り去ってしまいたい衝動を懸命にこらえ、だが視線は足下に落としたままだ。
 返事なんて、聞く前からわかっている。
 玉砕しかありえない想いを伝えられただけ、良かった。
 なのに、バラしてしまっては元も子もない。
 ひどい後悔だけが重しのようにのしかかってくる。
「……知っとったよ」
 沈黙を破った江神の言葉は予想外のもので、有栖川は思わず顔を上げた。
 江神は真顔で有栖川を見つめている。呆けた顔をしている自覚はあったが、それをどう受け取ったのか、江神はもう一度言葉を繰り返してくれた。
「知っとった。というより、予測はついとった。あの手紙は、アリスからの手紙やろうって」
「なん……で」
「推理の初歩やで、アリス。筆跡変えようとした努力は認めるけどな、癖は変わっとらんかった」
 至極真顔で告げてくる。
「せやけど……何も言ってくる気配はなかったし、手紙も自己完結っぽかったから、どうしたもんかと思ってな。俺もおまえの様子を窺ってたんや」
「江神さん……」
「返事、ほんまは欲しいんやろ? せやからさっき、送り主は自分やって言ってくれたんやろ?」
 問いに、躊躇いがちながら頷く。
 告げるだけで満足したと思っていたが、違っていた。
 答えはひとつしかないのにと自分の愚かさを笑ってくれてもいい。
 それでも、気持ちの決着をつけてくれる人は、江神しかいないのだ。
 こんな利己的な理由で告げられても、困らせるだけなのかもしれないが。
 だが江神は微笑みすら浮かべ、有栖川の頭を撫でてくれる。
「……じゃあ、俺からもひとつ告白をしようやないか」
「告白……?」
「ずっと前からアリスのことが好きやったんやけど、アリスは気付いてなかったんやな」
 思いがけない告白に、有栖川が叫ぶまであと1秒――。
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