16/大丈夫なんて嘘

 ひとりになってからようやく「しまったな」と思った。
 人質にされた巻き添えの一般人を助けたまでは上出来だったと言って良い。仮にシャンクスが彼女だったなら、シャンクスに惚れたかもしれない――もっとも、鮮血に免疫があればの話だが。
 それほど鮮やかな救出だった。
 海賊とはいえ、元々無関係の者を巻き込むような戦闘は好きではない。必要に迫られた場合はその限りではないが、今回がたまたまそうだった。
「ったく……仕方がねェか」
 ぼやいていても状況は変わらない。さっさと仲間の許に戻るのが一番だ。
 だが、躊躇ってしまう。
 左の脇腹に食い込んだままの金属片。指の長さほどだが、位置が悪いように思う。抜けないことはないが、抜いてしまえばおそらく大量の血が流れるのではないか。
 ここまで撤退できたのは僥倖だったのだろう。だが、運のすべてをこんなところで使い果たしてしまうつもりはない。
「参ったなァ」
 大して困った様子も見えない口調で呟くと、木の陰に身を隠すように座り込む。
 船まで戻らなければ、傷の治療は無理だ。街にのこのこと戻れば、先程の連中が待ち受けているのは自明だ。せっかく振り切ったのに、そんな馬鹿をしては後で仲間に何を言われるか。
 一番安心なのは、仲間に見付けてもらうことだが、いつ来るともしれぬ仲間を待つ余裕はない。
 仕方ない。
 ほんの少しだけ休んで、自力で戻る。
「大丈夫、大丈夫……」
 自分に言い聞かせるように呟くと、ひとつ溜息を吐いた。
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