「わかってるんだろう」
ベックマンの声は硬い。
この男がそう言うであろうことはたやすく予想できたことだったので、シャンクスは口元に笑みすら浮かべて頷いた。
「ああ。だから何だ?」
何が問題なのだと言外に問う。
それもわかっている。
下手をすれば世界を敵に回すかもしれないこと。
だがそれも――海賊なら、いつでもその覚悟がなければならない。むしろ胸躍らせるくらいでなければ。
「…………」
深い溜息。
何度も聞いたことのある響きは、シャンクスにとっては悪いものではない。何故ならたいていはこの男が折れる合図だからだ。
「まったく勝算がないわけないだろ」
「……ああ、だが……」
「わかってる。けど、俺たち以外に誰が出て行ける? 白ひげのオヤジが簡単に止まってくれるたァ思っちゃいねェが、海軍くらいは止められるだろ」
海軍の力を侮っているわけではない。
だが、本拠地を手痛く攻められたなら――あちらも折れる時機があるはずで、そのタイミングさえ見誤らなければ必ず何とかなる。
「……そのタイミングを見極めろ、と」
「安心しろ。おまえひとりにおっかぶせる気はねェ」
何年俺の補佐してるんだと笑えば、ようやくベックマンの表情もわずかながら緩んでくれる。
「俺の船のことだ。俺がひっかぶらねェでどうするよ」
「…………あんたらしい」
褒め言葉ににやりと笑ってみせると、すっかり白くなったベックマンの髪を掻き混ぜるように撫でる。緩んだ顔が渋くなったが、そこは見ないふりだ。
「じゃ、そんなわけで――連中にも話してくるか」
どんな反応が返ってくるやら。
いや、どんな反応が返ってきても、意志を曲げるつもりはないのだが。
ついてくる足音を聞きながら、副船長室を後にした。