09/気高き微笑み

 互いに間合いを取り合うと、アラゴルンは剣を軽く血振るいし、鞘に収めた。ボロミアも同様に剣を収める。時間は長くなかったはずだが、それなりの疲労感はあった。
 食前の軽い手合わせ、の筈だったが、予想以上に真剣な手合わせになってしまった。
 食事はあるだろうか。ホビットたちはその小柄な体の割に、並の人以上によく食べるのだ。下手をするとこちらの分を取り置き損ねて食べ尽くされているかもしれない。そのあたりはガンダルフやレゴラスがうまくしてくれているといいのだが。などと考えていると、肩に手を置かれる。振り返るとボロミアだった。どこか清々しい様子で笑んでいる。
「どこか――誰かに剣を?」
「いや……、師事はしていない。手ほどきは受けたが、いつもというわけではなかった」
「手ほどきは誰が?」
「エルロンド卿のふたりの息子、エルロヒアとエルラダンだ」
「エルフに剣を……だからか」
「何がだ?」
「あんたの剣は速くて的確だ。なのにどこか余裕があるように感じる。エルフが剣を使うところは間近では見たことはないが……やはり優雅なのだろう。比べてみれば似ているなと、今思ったのだ」
「……過分な褒め言葉だな」
「そうか? 足りないくらいだ」
「あんたの剣筋のほうが力強くて羨ましいと思う」
「私の?」
「力強くて迷いがない。ゴンドールの大将に相応しい。あんたの場合は師がどうこうというより、あんた自身のセンスが良いんだろう」
「…………」
 アラゴルンの言葉に、信じられない言葉を耳にしたように目を見開く。そして笑った。その笑顔はアラゴルンの目に深く焼き付く。
 そして、ずっと忘れられない笑顔になった。
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