06/頑張るよりも

「無駄な努力って知ってるか?」
 そう言って笑った顔に、ベックマンは拳を叩き込んでやった。

 
 
「そりゃあんたが悪い」
 頬を氷で冷やしているシャンクスに、ヤソップは苦笑混じりに言った。
 前回の寄港からそろそろ二週間になるが、船は平穏に航海を続けていた。嵐に遭うわけでもなく、海軍や功名に流行る他所の海賊団とぶつかるわけでもなく、順風満帆を体現しているかのような航海だ。
 つまり、平和だからこそ暇だとも言える。そしてこの海賊団の頭は、ずっと平穏でいられることを甘受し、つつがない退屈な日々を謳歌するよりは、少々の問題があっても飽きないでいたいタイプの人間だった。
「……オレが間違ってたって?」
「副船長への言葉としてはな。他の奴なら、また違った受け取り方をするだろ」
 そもそも、そう簡単に怒りを暴力という形で表す男でないのは赤髪海賊団にいれば誰もが知っている。
 冷静で通っている副船長が本気で怒ることがあるとするなら、それはすべて頭たるシャンクスに絡んだことであるのはまず間違いない。そして、シャンクス自身が副船長のベックマンを怒らせることは、ままあることだ。
 それもベックマンが副船長であるがゆえについて回るものだろうと、ヤソップにはわかっていた。
「せっかく考えた計画を、頭ごなしに否定されりゃあなァ。急げって言われて二徹明けだろ? それでそんなこと言われりゃ、おれだって頭にクるぜ」
 たとえ杞憂を念頭に置いた計画だとわかっていても。
 ヤソップの指摘にシャンクスはしばらく無言でいたが、やがて「ありがとな」と一言だけ残し、その場を立ち去った。
 これ以上こじれるのはごめんだとヤソップは溜息し、煙草へと手を伸ばした。
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