03/嬉しい誤算

 さてさて、こいつは――
 赤髪は内心で揉み手するような気持ちで、目の前の木の板を見つめた。背後では仲間たちが神妙に赤髪の動向を見守っている。固唾を飲むとはこのことか。
 だが赤髪には彼らの緊張感など微塵も伝わっていないのか、突き刺さった板を眺めた後で傍らの副船長を顧みた。
「なんて書いてあるか、読めるんだろ?」
 小さく肩を竦めたのはいかなる意味か。紫煙をくゆらせながら、赤髪の指し示す板に視線をやる。
 厚さ三センチ、幅十センチほどの板には、文字とも文様ともつかないものが彫り込まれ、彫られた部分にだけ青い染料が塗布されていた。おまけにちょっとした洞の中にあったせいか、長い年月の放置にもよく耐えて、彫られたものの形ははっきりわかる。
 読めはしないのだが、同じようなものを別の場所で見たことがある。
 その時に示された物は空振りだったが、今度はどうか。
 そもそもこういったものは、たいていが空振りだったり偽りであるものだ。赤髪自身の記憶でも、こうやって勿体付けられた結果、空振りだったことのほうが多いくらいなのだから――ふと、副船長の眉が小さく跳ねた。
 問うより先に、低い声が笑う。
「……当たりかハズレかは、あっちに見える山を登る必要がありそうだ」
 途端、空気が弛緩した。こんな時に真っ先に笑うのは赤髪だ。そして続くのが幹部連中。
「なんだよ、勿体付けてくれやがるなァ!」
「まったくだぜ!」
「しかもあの山って……ほとんど来た道引き返すんじゃねェか?」
「微妙に違いますけど、距離としては同じくらいありそうですねー」
「っかー! ここまで半日かかったっていうのに!」
「しょーがねェなァ、山は明日だ! 今日はここに泊まるぞォ!」
 赤髪の言葉に仲間たちは歓声をあげ、すぐさま野宿の準備へと取り掛かる。
「ここだと思ったのになぁ」
「……ハズレた割に、ガッカリって感じじゃねェな」
「そりゃな。楽しみがほんの少し先に延びただけと思えば」
 またそれを口実に飲めるしと言い、少し考えるそぶりを見せると、今日の酒はほどほどにしておかねェと明日の分がなくなるなと笑った。
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