ああ、以前にもこんなことがあった。
あの時もその前も、俺は為す術なくこの人の枕元に座っていた。
船医は最善を尽くしてくれた。その上で「後は起きるのを待つしかできねぇな」と宣告をくれた。俺は医学に本職の人間ほど造詣が深いわけではない。だからシャンクスの回復は本当に、彼自身の体力と生命力(ルゥなどに言わせれば「命汚さの度合い」らしいが)次第なのだろう。
一日の仕事すべてを終え、彼の部屋へ入った。返事はまだ返ってこないと知っているのにノックしてしまうのは、習慣だ。
月明かりが、シャンクスの足元へ淡く影を落としていた。音を立てぬようドアを閉め、枕元に置かれた椅子へ腰掛ける。
昏睡状態に入って三日目だ。まだ、とも言えるし、もう、とも言える。邪魔が入らないから仕事は捗るが、いつも必要以上にテンションの高い男が不在というのは、船員の士気に多少なりと関わるらしい。皆、どこか浮かない顔をしていた。
寝息を立てて眠る男を見下ろす。顔が青白いのは、月光に染まっているからだろうか。俄かには判じかねた。
この男が、こんな様になるような敵ではなかったはずだ。それなのに、凶弾の一つは心臓を掠め、もう一つは肺を掠めた。
今、意識がないまでもシャンクスが生きているのは処置が早かったのと船医の腕のお陰だ。頭が倒れたことで浮き足立ちかけた仲間をまとめ、敵を壊滅させたのは、副船長たる自分の手腕。
勝ち戦だと言うのに酒宴がなかったのは、皆か船長の回復を待っているからだ。
回復しないはずがない。誰もが、シャンクスの底無しの生命力と悪運の強さを知っている。
顔を寄せ、間近にシャンクスの顔を見つめる。頬に触れれば、知っているより削げていると感じた。点滴で栄養は摂れていても、肉にはならないからだろう。
額や目蓋を指で辿る。肌の暖かさが、彼の生を告げていた。
「……いつまで俺達を焦らすつもりだ……?」
触れた唇は渇き、ひび割れていた。