「……あ――」
黄肌の奇岩を正面に見、シャンクスは頭を掻いた。
己の状況を把握し、頬を歪めた。
「参ったな」
せいぜい上等のシャツに泥が跳ねた程度の軽さで言うと、楽しげに岩を見上げた。
待つか進むか、考えるまでもない。待つのは苦手なのだ。行くしかあるまい。
「さっきはここを右に曲がったから――」
今度は左に行ってみるか、と気楽に足を踏み出した。
彼の不在にまず気付いたのはヤソップだった。
「あれ? お頭は?」
先ほどまで食事の支度を邪魔しているルゥにくっついていると思ったが、いつの間にか居なくなっていた。
一緒にいたはずのルゥに訊いても、料理長に怒鳴られてからは知らないという。スネたかグレたかと、三十路の男を捕まえて心配なのか侮蔑なのかわからぬ心配をしていた。
副船長に届けられたのはその直後である。
報を聞いて驚くかと思えば、船一番頼りになる男は苦笑して溜息を吐いただけだった。
「放っておけ」
子供ではないのだから、その内戻ってくるだろう。何より狭い島だ。一周回っても一日あれば帰ってこれる」
テントを張るのに指示を与えながら、副船長はいつも通り冷静に見える。
三十路目前の男を、船員が真顔で心配するのがオカシイ。それも海賊団の、れっきとした頭を、である。ただ、この船長はしばしばこのように船員達へ心配をかけるのだった。
でも、と若い船員は食い下がった。誰に対しても反論が許されるのが、この海賊団の良い所だ。
「戻ってこなかったら?」
いつだったか、北の海に行った時には気付かずに流氷に乗って、そのままどこかへ行ってしまう所だったじゃないですか。
責めるように言われ、ベックマンは顔を顰めた。確かにあの時はひどく大変だった。船長がそれをまた楽しむものだから始末に負えない。
テント張りの指示を慣れた船員に任せ、若い彼に向き合う。
要するに、「自ら積極的に探しに行くつもりはないが、誰かに探しに行ってもらいたい」ということなのだろう。
居たら居たで人に迷惑をかける男だが、居なければ居ないでも迷惑をかける男だ。
煙草の長くなった灰を落とし、苦笑する。他の作業をしている仲間が、興味深げにこちらを気にしているのがわかる。
呼ばれ、背後を振り返った。狙撃手が人の悪い笑い方をしている。
「こっちは任せておきなよ。大丈夫だからさ」
そうやって船長を皆が甘やかすからつけ上がるのだと苦く漏らしたが、「つけ上がられるのはおれ達にじゃねぇからなあ」と笑われる。
返す言葉もなく苦笑すると、島の地図を広げた。