23/永遠

 立て続いた戦闘で、さすがの赤髪海賊団にも、とうとう死人が出た。勝ち戦ではあるし、誰もが勝利を喜んだが、どうにも空気は重い。
 しかしそれも宴が始まってしまえば、とりあえず一掃される。しんみり暗くなるより、酒を飲み馬鹿騒ぎをしながら死者を弔うのが、彼等流の手向けだった。
 宴も終焉に近付くと、めいめい行動はバラバラになる。部屋へ引き上げる者が大半だが、中には食堂、または甲板に留まる者もあった。
 この夜、珍しく船長も甲板に留まっていた。正確には舳先――船首に、胡座をかいて。
 夜風に吹かれ、赤い髪を揺らしていた。錨は下ろしていないから、もし転落すれば大惨事になる。
「いつまでそこにいるつもりだ?」
 転落の心配ではなく風邪の心配を寄越したのは、部屋へ戻ったと思われたベックマンだった。
 赤髪は振り返らない。
「お頭」
「……ああ」
 振り返った顔は予想に反し、笑っていた。どちらかと言えば苦笑の類だ。
「ずっと、って、いつまでだ?」
「はぁ?」
 質問の意図が飲めず、首を傾げた。
 シャンクスは同じ言葉を繰り返してくれた。どうやら、言葉通りの意味を訊いているらしい。
「昔あいつがオレに言ったんだ」
 酒の席だったように思うが、酔った上の戯言にしては、やたら真剣な眼差しだったので覚えている。

 ずっとお頭についていきたい。ずっとこの船に乗っていたい。

 その時は、好きにしろよ等言ったように思うが、いまいち記憶の鮮明さに欠ける。
 だが彼が鬼籍に帰した今、ふと思い出してしまった。そして言われた「ずっと」について錯綜していたのだ。
「…………」
 ベックマンは紫煙を吐き、わずかの間、思考した。
 答えを呈するのは容易いが、それが果たして仲間が言いたかったことなのかどうかはわからない。
 前置きを惜しみ、シャンクスは答えを欲しがった。
 シャンクスを舳先から下ろすことに成功すると、部屋に向かう。
 部屋に入ってようやく口を開いた。
「命果てるまで、だ」
「は?」
「『ずっと』の意味」
「ああ……」
 シャンクスは右手で頬を撫でると苦笑し、次いで照れた。
「てっきり告白されたのかと思った」
 恐いこと言うなと露骨に苦笑され、シャンクスは顔を顰めた。
「……そういやお前には言われたことがないな」
「何を?」
「ずっと一緒に居たいとか、そういうことをさ」
 真面目くさったシャンクスの物言いに、ベックマンは「そうだったか?」と肩を揺らして笑った。
 あからさまにむくれるシャンクスに笑いを収め、正面から抱き寄せる。酒と、潮の匂いがした。
 耳に囁く言葉は、彼の機嫌を直せるだろうか?
「生憎俺は、不言実行型でね」
>>> next   >>> back