22/ふたり

 叶えようと思って、叶わないことなどなかった。
 海賊になりたいとか、一人立ちしたいとか、世界を見て回りたいとか、大きな船が欲しいとか。
 そういうのは大概、自分が努力すればなんとかなることだったから、なんとかしてきた。いい加減なオレでも、なんとかなるもんだと思ったもんだ。
 一人じゃできないこともあるんだと気付いたのは、一人立ちしてしばらくしてからだ。
「……顔に何かついているか?」
 新聞から目を上げない副船長。灰を落とし、また咥える。
 朝食後の一時、日課でいつもそうしてる。知っていて奴の目の前に陣取り、じっと顔を眺めていた。
「……別に?」
 何でもないよと笑み、字面を追う理知的な顔を惚けたようにまだ見つめる。オレの視線を気にしないでいてくれるのが有り難い。
「何してるんだ、あんたら」
 呆れた声の主はヤソップ。周りの連中が気味悪がってるぞと言ってくる。
 失礼な話だ。ただ顔を眺めてるだけじゃねぇか。見つめ合ってるわけじゃないのに。
「俺は新聞を読んでるだけだ」
 ヤソップの言が不服だったのだろう、ベックマンは顔を顰めた。
「何かあるならお頭の方だろう」
 食事を終えてからずっとこうだ、と肩を竦める。
「食事? 三十分前には終わってたんじゃなかったのか?」
「終わってたな」
「……それからずっと?」
「ああ」
「気にならねぇのか、副船長」
「別に……何かされてたわけじゃないから」
 平然としたベックマンの答えに、ヤソップは大袈裟に溜息した。嘆かわしい、と言わんばかりに。
「……恥ずかしすぎるぞ、あんたら」
 そういうのは公共の場でやらんでくれ、と苦言を寄越し、離れた席で少し遅い朝食にありついたようだった。
 奴が新聞を少し下げる。頬杖ついて、相変わらず眺めていたオレと、目が合う。
 眉を上げただけで「何?」と問うたオレに、苦笑を寄越してくれた。
「何がしたいんだ、あんたは」
 そう言う表情は、困った時によく見せる皺の寄せ方で。
 オレはにっこり笑い、「一人じゃつまんねェことってあるよなー」と呟いてやった。奴はやっぱり、「わからない」と首を傾げたのだった。
>>> next   >>> back