口に含むと蕩けて、いつの間にか消えてなくなる。
その甘さがまだ惜しくて欲しくて、ついついまた手を出したくなる。
甘い甘い砂糖菓子。
小さいから良いのだろう。
「甘い物ばかり食べてると、虫歯になるぞ」
大きな背が、振り返りもせずに諫言を寄越す。
口を尖らせて反論したくなるのは、言い方がおざなりだったからか。
「よく、見てもないのにわかるな」
もうじき日付も変わろうかというのに、この船の副船長ときたらまだ何か仕事をしている。航海日誌を付けているか、積荷のチェックか。いずれにせよ、マメであるには違いない。消灯時間はとうに過ぎている。
しかし、船長がわざわざこの時刻に忍んで(?)きているというのに、この態度はつれないのではないか。
「袋をガサガサする音がするから」
「早く終わらねぇと、全部喰っちまうよ」
「それはいいが、歯を磨け」
「磨いたら終わるのか?」
「……多分」
「ふぅん?」
じゃあ磨いてこようかなと呟き、床から立ち上がる。洗面所に行きかけて――気紛れに、男の背後に立った。肩越しに書き物を見れば、几帳面な字がびっしりと連なっている。
なんだ、と訊いてきた男の顎を掴んで上向かせ、つれない唇に喰いついた。煙草の味がするキスは、けして美味いものではないが――甘い。
軽く舌を絡めると、すぐに放してやる。呆れた表情で自分を見上げる男に、悪戯な笑顔を返してやった。
「お前も、歯ァ磨けよ」
甘いモン喰ったんだから。
いつも沈着であるはずの男は数瞬沈黙し、その後「ったく……」と、大いに苦笑してくれた。