早暁、隣で寝ていた男のせいで目が覚めた。
何を暴れているのかと思ったが、暴れているのではなくうなされているのだと気付き、遅まきながら彼を揺り起こした。
「シャンクス? おい」
起きろ、と何度目かに、ようやく目を開いてくれた。
跳ねるように身を起こすと、知らぬ者を見るように俺の顔を凝視する。夢と混同しているのが見てとれた。
水を汲み、渡してやる。一息で飲み干すと、ようやく落ち着いたらしかった。
「……ああ、よかった」
思わず漏れた言葉を聞き逃がさなかった。どういう意味かと尋ねると、答えを寄越さず俺に凭れかかってくる。
さして暑くもないのに額に浮いた汗が、悪夢を連想させる。
伏せた睫の赤に目を奪われているうち、ようやく重い口を開いてくれた。
「誰だかわかんなかったんだよ」
「……?」
シャンクスが省いて話を進めるのはいつものことだし、察して汲み取るのもいつものことだが、この場合はわからない。かといって相手が誰なのかを問うて良いものか――
逡巡を、彼の方が察してくれたらしい。小さな笑いが肌から伝わった。
「髪が、十年前は真っ黒だったけど今は灰がかった、背の高い頼れる副船長サンだよ」
「…………」
「なんでそこで黙るかねぇ?」
誉めてるのに、と睦言めいた響きでもって呟くが、おいそれと信用できるものではない。
右腕に触れてくるのをそのままに、先を促した。数瞬の沈黙の後、口許に薄く笑みを刷いて語ってくれる。
「いつもと一緒なんだよ。仲間と馬鹿騒ぎして、飯食って。勿論お前もいた。皆がお前に話しかけるし、お前も笑って答える。……けど、オレだけお前のことがわからない。誰なのか、どうしてもわからないんだ」
しかしシャンクスの戸惑いにもかかわらず、夢の中の「ベックマン」は話しかけてくる。
周りの人間が知っているのならば、仲間に間違いはない。
しかし自分はこの男が何故仲間になったのか、覚えていない。今この時もわからない。一体いつから仲間なのか? オレだけわからないのは何故だ? 記憶喪失? まさか。
考えている間にも夢の中では夜になり、部屋に篭って一人で考え込んでいた所へベックマンがやってきて――
「やあ、強姦されるかと思ったね、流石のオレも」
「…………」
いい所で起こしてくれて助かったよ、と後ろ手で頭を撫でられる。俺の沈黙の理由にも気付かず、シャンクスは夢の出来事を思い出したのだろう、肩を竦めて笑った。
寝ながら暴れてうなされていた理由はわかったが、原因が(夢とはいえ)自分にあったとは。
しかし。
「俺のことだけ忘れるあたり……」
「ん?」
何だよと訊き返されるが、口篭もってしまった。薄情だと責めるのも御門違いだろう。
なんでもないと誤魔化したが、見抜かれていた。シャンクスはこちらに向き直ると首に抱きつき、軽く音を立てて口付けを寄越した。
「夢だよ、夢」
次は思い出すからさ。
笑ってもう一度キスを仕掛けてくるシャンクスを、抱きしめた。