16/涙

 シャンクスの表情はくるくると変わり、定まる時がない。仲間といる時はたいてい笑っていることが多いが、笑いの種類も様々だ。
 大口を開けて馬鹿笑いし、笑い過ぎて涙を流しているかと思えば、意地悪くルゥをいじめている(が、ルゥに堪えている様子は見えない)。海軍が見れば「これが赤髪か」と首を傾げるに違いない。
 敵の前ではそんな馬鹿はナリを潜め、傲岸不遜にも見える海賊の顔になる。
 時折多重人格を疑いたくなるが、それもまぎれなく、シャンクスの一面だ。
 最も――一番疑いたくなるのはベッドの中なのだが。
 己の腕の中で悶え、喘ぎ、涙すら浮かべる表情は、昼のどんな時にも見られない淫猥。
 剣を振るう彼の姿にも魅了されるが、もしかしたらそれ以上に、赤い髪を乱して啼く姿態に惑わされている。
 不意に、彼がこちらを振り返った。涙を拭きながら手を振ってくるシャンクスに微笑みを返し、煙草を挟んだ手で小さく振り返してやる。

 泣き顔を思い出していたと言ったら、どんな表情をするだろう。
>>> next   >>> back