病気だというのなら、この船に乗っている人間の全てが病気だろう。
完治不可能、末期も末期のどうしようもない病。
「そういうお前だって、この船に乗ってるんだろ?」
スコッチを傾けながらヤソップは笑う。隣に座っていたベックマンは紫煙をくゆらせ、小さく頷いた。
「じゃ、お前も末期患者なわけだ」
まあ一番の重病患者には違いないと思うけど。
ヤソップの軽口に反論もせず、つまみのビターチョコを口に放り込んだ。葉の苦味とは違う苦さが口中を満たしてゆく。
「お前が一番、お頭に甘いもんなぁ」
心外な言葉だ。
甘いと言われるようなことをした覚えは、今までにも今もこれからもない。大体、どのあたりを見て甘いというのか。
ベックマンの真面目な反論を聞き、ヤソップは大いに苦笑した。これは、自覚がないだけに一番性質が悪い。
「お頭の無茶、なんだかんだ言って最終的には止めないだろ」
「止めて聞くような人じゃないからだ。止める労力が惜しい」
「押し付けられた仕事、こなしてるし」
「……そうか?」
真顔で首を傾げる。
駄目だ。本当にわかっていない。
「……どいつもこいつも、ビョーキだな」
呟きに、副船長は甚だ心外そうな表情をしたが、結局狙撃手の言葉を訂正したりはしなかった。