熱い湯を、頭から浴びる。凍えた躯が解されてゆくのがわかる。
長い黒髪を伝い、絶え間なく零れていく水滴。
躯を洗いながら、肩口に疼くような痛みを覚える。鏡を覗きこめば、右肩には歯型がついていた。
先程の情交の名残だ。極まった時、食らいつかれた覚えがある。
指でその場所を撫でると、口元が知らず緩んだ。
片腕でしがみつく彼の姿が、目蓋の裏に思い出される。欲しがる声は耳に残っていた。
再び、頭から湯をかぶる。長い髪が背を這う。泡も湯とともに流れ落ち、小さな渦を作って排水溝へ吸い込まれてゆく。幾筋かの髪だけが、流れずにへばり付いていた。
躯を洗っても、彼の声が耳から落ちることはない。冷えたと思った熱が、芯から煤ぶっている。微かな火は、やがて燎原となりそうな気がした。
彼は、既に寝息を立てているだろうか。
シャワーを口実に起こすことを考えながらシャワーを止め、バスローブを羽織った。排水溝にはやはり、髪が絡まったままだった。