廊下をけたたましく走る音を聞き、ベックマンは書き物の速度を早めた。どうやら船長のご帰還らしい。
夜から降り続いだ雪で遊ぶのだと、ルフィが午前中からやってきて、以来甲板で遊んでいたはずだ。切り上げるにもまだ日は高く、積もった雪も溶けてはおるまい。
思考を巡らせながら書き上げたと同時に、「副船長――!」呼ばわりながら船長が押しかけてきた。
「手袋どこやったっけ?!」
「あんたの物ならあんたの部屋だろう」
あの足の踏み場にも苦労する床か無秩序な物入れのどちらかにあるだろうと面倒そうに応じると、咥えた煙草に火をつけた。
「違う、オレのじゃなくて」
子供用の手袋があったはずだとシャンクスは主張した。前に頂いたお宝に混ざっていたのを見たという。海賊にはあまりに不似合いな戦利品に違和感を感じたから覚えている、と矢継ぎ早にまくしたてられた。
言われて、記憶を手繰り寄せる。膨大な数の戦利品リストの中からとうとう目当ての品を思い出した時には、我が事ながら称賛したくなった。
「……確か、ヤソップが持ってったんじゃなかったか?」
シャンクスは狙撃手の名を反芻すると「サンキュ!」少しの時間も惜しいとばかりに出て行く。
「ちょっと待て」
慌てて引き止めると、彼の手を掴んだ。思った通り、素手だった。
「お前の手、あったかいなー!」
「あんたが冷たいんだよ。持って行け」
苦笑し、椅子の背にかけたコートのポケットから手袋を取り出し、シャンクスの手にはめてやった。
「あったかい」
「それは何より」
シャンクスの手には少し余る手袋だが、彼は喜々として手を開き握り、それからベックマンの頬を包んだ。革の滑らかな感触と、瞳の青に捕われたのを悟る。
「体も後で暖めてくれな」
邪気だらけで微笑むと、唇を掠めて口付けた。