07/携帯電話

 作戦のため、団を分けての別行動をとってそろそろ一月が経とうとしている。気の短い船長を思えば、よくもったと誉めてやるべきなのだろうか(そんなことで船長を誉めるのもおかしな話だが)。
 副船長は船員の二十人ばかりを率い、小さな無人島に駐屯していた。船長は本船に残り、予定の航路を進んでいるはずだった。彼が率いる船員も、副船長と大差無い。大半の船員は、ヤソップとルゥが率い、これまた別行動をとっているはずだ。
「そんな回りくどいことしなくても正面からドカンと当たればいいじゃねェか」
 不満そうな船長――シャンクスの顔が思い出される。
 結局この作戦自体は幹部の多数決により決定されたが、最後までシャンクスは不満そうだった。
 子供でもあるまいに――
 離れるのが淋しいのかと意地悪く問えば全力で否定されたが、実際の所はわからない。淋しくなかろうとも、フリくらいはできるものだ。
 近海の地図を片手に本船の速度と位置、相手方の進路を考えていると、海賊旗と同じ帽子をかぶった青年に声をかけられた。
「何だ?」
「電伝虫に呼び出しかかってます」
「何?」
 ベックマンは首を傾げた。
 念のためにと各隊に渡された電伝虫だったが、傍受を考慮してよほどのことが起こらない限り掛けないはずだった。
 緊急かと問えば、答えは曖昧で、顔を険しくすると「お頭からです」と苦笑された。
 すわ予定外の事態でも起きたかと慌てて電伝虫を取れば、いやに陽気な声が響いた。
「副ちゃ―――ん。元気してるか――?」
 離れても聞こえる声に、ベックマンは久方ぶりに脱力させられた。
 恐らくシャンクスは酔っ払っている。
「……何の用だ」
 緊急以外なら切るぞと告げると、電話向こうでやや慌てた様子が伝わった。
「用事ならちゃんとあるっ」
「何だ」
「声が聞きたかった」
「…………」
「切るなよ?!」
 冗談だ冗談! 胸を張って笑う姿が容易に脳裏に描け、溜息をついた。
「……それで、どんな用件なんだ結局」
「別に大したことじゃあないんだけどね……お前が予測した中で、一番可能性が少なかったことになりそうだよ」
 にわかに、己の立てた仮説が頭を巡る。
「早かったのか」
「ああ。明日の昼にはぶつかりそうだ」
「早く言え!」
「気付いたのがさっきなんだよ。まあ、そういう訳だからヨロシク」
 ヤソップ達への連絡も一方的に任せられ、電話を切られる。悪態の一つでもくれてやりたかった。
 周りにいた仲間達に出航を告げ、せわしなく準備が始まる。もともと荷物は少なかったのだから、一時間もあれば出航できるだろう。
「……ったく……!」
 先ほどまで敵船の動きがわからなかったなど、嘘に決まっている。大方、作戦を決めた自分達への意趣返しだ。
 いかにシャンクスとはいえ、大型のガレオン船を相手に少数で当たるのは――
「……無理と言えないのが嫌な所だ」
 忌々しいとばかりに舌打ちし、己の荷物をまとめて船に乗り込んだ。
 風向きが悪かろうと、明日の昼には決戦地へ着いてやると決めた。
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