大きく伸びをして、身体を起こした。
立ち上がって腕や足を動かし、どこも痛まないことを確認するとあたりを見回した。とはいえ、にわかにはわからぬほどの暗闇に覆われているので、手探りで調べる他に方法はないのだが。
簡単な調査の結果、周りはすべて石の壁に囲まれているらしい。ご丁寧に、入口まで石壁だ。一メートル四方ほどの壁の縁だけ、土が取れている。
八方塞がりとはよく言ったものだ。
「さぁて……どうするかねぇ……」
腰の得物は、当り前だが取りあげられている。石牢に入れられたからとはいえ、万が一を考慮したのだろう。さすがのシャンクスも、素手やサンダルを履いただけの脚で厚さも知れぬ石の壁を破る無謀さは持ち合わせていない。
「……って思われてンだろうな」
暗闇の中、唇を歪める。
その場に座り込み、頭上を見上げた。
明かり取りすらない牢だが、呼吸が出来るので完全密室ではありえない。扉以外の隙間がどこかにあるのだろう。外の湿度も伝わってくる。
「……降ってるな、こりゃ」
左腕の傷も、内側から疼いている。この牢が地下にあるのか地上にあるのかわからないが、雨が降っているのは間違いあるまい。
左肩をひと撫ですると、溜息をついた。
「……隙間からアイツが降ってくるってこたぁ、ねェもんなァ」
自分の発言に笑わせられる。そんなことができるのは、悪魔の実の能力者か――神だけだろう。
それにそんなことをした神は、女へ夜這いをかけるために雨水へ変化したのだ。自分は女ではないし、救出へ向かっているだろう男も神ではない。
「そもそも、待つのって苦手なんだよな……」
百数える間だけ待ってやる。その後は――何としてでも自力で牢を破ってやろう。
雨の中自力で帰り着いた自分を、あの男はどんな顔で迎えてくれるだろう?
不穏な笑みに、湿った空気が震えた。
あと、八十秒――。