「ありゃなんだ?」
シャンクスが指差したのは、白い衣装を着た人々の列だった。
皆同じように白い衣装を着ており、頭には鉢巻のようなものを巻いている。また、列の中には真白の布を旗指物のようにしているものを携えている人、ドーナツ型や四角の紙を歩きながら道に撒いている人、袖で顔を覆って号泣している人、また黒い衣装を着た数人の者は、飾りのついた大きな箱状のものを神輿のように担いでいる。彼らの頭にはやはり白い鉢巻が巻いてあった。
「副、ありゃなんだ?」
シャンクスでなくとも奇異に見えただろう。その風習を知らなければ。ベックマンは紫煙を吐いた後で答えてやった。
「葬式だ。このへんの有力者でも死んだんだろう」
「へぇ……けっこう賑やかだな」
葬式だと知った上で、さらに彼らを観察してみる。白に身を包んだ彼らは、黒を纏う人々ほどには重苦しく感じない。嘆いていても、やりきれなさは感じない。だからといって彼らが死者へ真摯でない、というわけでもなさそうだ。
「昔、この国の宰相が死んだ時は、民のほとんどがあの白い喪服を着て墓まで長い列を作ったそうだ。その列も、一ヶ月は途切れなかったらしい」
「ふぅん……」
よほどその人物が民衆に慕われていた、ということなのだろう。シャンクスは腕を組み、「気に入らないな」顔をしかめた。
「何が?」
「墓参りする奴が多かったのは、それだけ国民に慕われてたってことだろう? 国民にとってはいい政治をしたんだよな、きっと。でもそいつが死んだからって皆が揃って墓参りに精を出すって、なんか違うような気がするんだよなあ……」
うまく言えないけど、とシャンクスはもどかしさをごまかすように頭を掻いた。
うまく言えないと言ったシャンクスの言葉を、ベックマンは理解した。国民が自分たちのために働いてくれた宰相へ感謝をするのは当然としても、彼の死亡をいつまでも嘆き、惜しみ続けるのは非生産的だ。
シャンクスは己の言葉にしがたかった感情を表してくれた男に頷く。「それに、」
「泣くよりすることあるだろって思うしな」
農民なら農作業、商人なら商売、海賊なら冒険・戦闘。死んだ人間には感謝しつつ、己の本分を果たさねば、働いてくれていた人間も喜べまい。
泣くだけが哀しみの表現ではないと思っているベックマンは頷き、紫煙を吐いた。