海軍上層部の内部事情は知らないが、末端の支部に腐敗が無いわけではない。軍に属しているにもかかわらず、海賊から賄賂を受け取る者や所轄の有力者の不正を見逃し利益を得る軍人も、まったくいないわけではない。軍の理念への理解が足りないのか、もともと私欲のために軍へ入ったのか。
清廉潔白な人間ばかりでは面白くはないが。
「何を考えてるんだ?」
ベックマンの肩からひょいとシャンクスが覗き込んでくる。
「新聞を読んでいるだけだ」
言うと、手元の新聞へ視線を移す。「何々、」
「海軍1371支部で不正発覚。ムクヤ大佐降格、禁固処分……こんな記事読んで面白いか?」
大見出しの記事を読み上げると、ベックマンの隣へ座る。昼前のこの時間を、船長は持て余しているようだ。
ベックマンはページをめくると煙草の灰を落とした。
「面白くはないな」
そもそも、取り立てて面白い記事が毎日載っているわけでもない。
「じゃ、何を考えていた?」
ページが全然進んでなかったことは知ってるぞと、頬杖をつきながら笑う。声をかける前から様子を窺っていたらしい。
紙巻きを吸い込む。たいしたことを考えていたわけではないが、このままでは聞くまでシャンクスはここを動かないだろう。
「軍人でも金に執着するものなのかと思っていた」
「正義が商売だろって? でもそいつにしてみりゃ、海賊を追い掛ける正義だけじゃ生きていけなかったんだろ。正義に寄生するのが海軍だし。金だけじゃ生きていけないのにな」
詰まらなそうに言う。そう言う彼は、何に寄生しているのか。
「オレ? そんなの、おまえだって知ってるだろ。海と冒険。これだろ」
「海だけじゃ駄目か」
「海を渡って、その先にあるものが何かを確かめに行くのが良いんじゃねェか。海自体も好きだけど、その先に何があるのかわからないから好きだな」
何もないと知らされても、自分の目で確かめねば気は済まない。断言し、シャンクスは笑う。
「金に寄生した奴は、金以外に魅力を感じなかったんだろうよ」
海賊になれば良かったのに。そうすればそんなつまらないものより楽しいことがたくさんあるのに。
真っ当な海軍軍人が聞けば卒倒するか怒り出しそうだが、シャンクスはいたって真面目なのだろう。
じっと見つめる視線を感じ、新聞から初めてシャンクスに顔を向けた。途端、満面の笑みを浮かべる。
「海賊になって良かっただろ?」
臆面もない台詞にベックマンは口の端で笑むと、小さく頷いた。