暖かくなってきたことだし、天気が良い日にピクニックに行こう、と言い出したのは、有栖川の記憶が正しければ、EMCの紅一点、マリアだ。そうして各自が弁当を持ち寄り、待ち合わせて琵琶湖へ出掛けたのがそれから四日後の日曜、すなわち本日である。
着いてから特に何をすると決めてもおらず、ピクニックに相応しく辺りを逍遥したり、森林浴とはいかないまでも、自然を楽しんだ。
ベンチに座り、各々が最近読んだミステリの話をしている中、有栖川は望月の隣に座っている江神をちらりと見た。煙草を吸い、吐きながら、織田の話を聞いているのかいないのか。
やや上向き、空を眺める横顔はいつもと変わらぬ二枚目だが、感情はさっぱり読み取れない。望月やマリアに話を振られてもしっかり返しているから、話は聞いているのだ。にもかかわらず、上の空に見えるのは何故か。
一体何を考えているんだろう。
織田の話に相槌を打ちながら、江神の横顔を盗み見た。
何を考えてるんですかと、気軽に聞けないような空気。後で二人きりになった時にでも訊いてみよう。有栖川は心の中でそう決めると、ちらりと腕時計へ目をやった。昼を大分回っていた。
結局その日は訊けず、月曜日を迎えた。昨日と同じく天候の良い日だったので、有栖川は授業の合間の気分転換に中庭へと向かった。
向かった中庭には先客がいた。江神だ。
「江が……」
見慣れた横顔に声をかけるのを躊躇った。ベンチに座る江神は、手にした本も読まず、傍らの木を見上げている。ただ見ているというより、まるで木が親の仇であるかのように険しい表情で睨んでいる。有栖川は江神のそんな厳しい表情を、初めて見た。
何かあったのだろうか。
訊いてもきっとはぐらかされる。江神はあまり自分を語らない。飲み会で昔話に花が咲いても、不思議と江神の話を聞いた覚えは、少なくとも有栖川にはなかった。
入部した時に感じた江神二郎という人の謎は、今でも大部分が謎のままだ。先輩・後輩という枠を越えて、体を繋げるような――いわゆる恋人のような関係になってからも、それは変わらない。
(僕ではあかんのやろか)
彼に悩みがあるなら聞くのに。誰より支えになりたいのに。
誰を憎むのか、苦悩するのか。吐き出してくれればいいのに。
(こんな僕では癒しにもならへんのやろか)
吐き口にもならないなら、黙って抱きしめるしかできない。無理に聞き出す真似は、したくなかった。すればきっと後悔する。
押し切る形で江神と体の関係を持ち、後からみっともない告白をして付き合ってもらっているだけの自分には、彼の内側を知る権利すら与えられないだろうか。
ふと、江神がこちらを振り返った。動揺したが、江神は既にいつもの穏やかな笑みを浮かべている。先程の、怖いくらいの眼光や苦しくなるほどの表情はどこにもない。
「アリス」
おまえも日光浴か?
問われ、曖昧な言葉しか返せなかった。
ここから彼の内側へ入れる日は来るだろうか。有栖川はひそりと嘆息し、江神の隣へ腰掛けた。