060/これだ

 本物を見た、と思った。
 今までにも多くの海賊を見てきたが、この時ほど強く衝撃を受けたことはない。落雷に打たれたような、とは、使い古された陳腐な言い回しだが、今その言葉以上に俺の心を射た言葉はない。
 この男を探していた。
 あの時から、ずっと。
 言葉ばかりが先行し、実体の見えなかった『最強』が、今目の前に現れた。これを好機と言わず、何と言うのか。
 世界最強の大剣豪。
 鷹の目と呼ばれる眼差しは鋭く、静謐だった。
 
 
 ふと目を開く。
 何度か瞬き、自分の居場所を確認する。すぐにうるさいいびきが二つ聞こえ、ゴーイングメリー号の男部屋なのだと思い出す。
 呼吸が荒いのは、おそらく夢のせい。額に薄ら浮かんだ汗を拭うと、もう一度目を閉じた。
 あの男も、こんな夢を見るのだろうか。見たことがあるのだろうか。
 自分もいつか、世界一の剣豪を目指す者に、そんなことを思われるのだろうか。
 
 次に眠って起きた時には、そんな徒然すら忘れてしまっていた。
>>> next   >> go back