本物を見た、と思った。
今までにも多くの海賊を見てきたが、この時ほど強く衝撃を受けたことはない。落雷に打たれたような、とは、使い古された陳腐な言い回しだが、今その言葉以上に俺の心を射た言葉はない。
この男を探していた。
あの時から、ずっと。
言葉ばかりが先行し、実体の見えなかった『最強』が、今目の前に現れた。これを好機と言わず、何と言うのか。
世界最強の大剣豪。
鷹の目と呼ばれる眼差しは鋭く、静謐だった。
ふと目を開く。
何度か瞬き、自分の居場所を確認する。すぐにうるさいいびきが二つ聞こえ、ゴーイングメリー号の男部屋なのだと思い出す。
呼吸が荒いのは、おそらく夢のせい。額に薄ら浮かんだ汗を拭うと、もう一度目を閉じた。
あの男も、こんな夢を見るのだろうか。見たことがあるのだろうか。
自分もいつか、世界一の剣豪を目指す者に、そんなことを思われるのだろうか。
次に眠って起きた時には、そんな徒然すら忘れてしまっていた。