似合う似合わないがあるとするなら、この男に「凡庸」という言葉は似合わない。しかし本人はあまり頓着していないらしく、
「そうか?」
などと首を傾げてくれた。
世の中、そうそう殺し屋などおるまい。道端を歩いて殺し屋にぶつかることなどないし、友人に数人の殺し屋がいる、など、聞いたことがない。
坂井が言うと、叶は口の端をつり上げて笑う。
「職業が殺し屋です、なんて言い触らして回る奴なんかいないだろうよ。ブラディ・ドールの客でも、この街にも、俺の他にいるかもしれない」
おまえが知らないだけでね。
正論だが、坂井は納得しない。確かに知らないことは考えられるが、言いたいのはそこではない。
「俺は、『殺し屋である叶さん』を抜きにして、叶さん自身が平凡とは無縁だなあと思ったんですよ」
「俺自身?」
そうでなければ、藤木に止められていたのに、興味だけで叶がどんな男なのか確かめようとはしなかった。
「褒めてるのか?」
「一応、そのつもりですけどね」
「俺が知ってるこの街の連中は、どいつもこいつも凡庸とは縁が遠そうだけどな」
勿論おまえも、と指をさされ、坂井は笑った。それはきっとこの街が凡庸から遠いせいだろうと、二人でまた笑った。
平和な午後の、真っ赤な車の中での会話だった。