闇。
風。
雨。
轟音。
閃光。
断末魔。
血飛沫。
「どうした? 条件はこっちもおまえらも同じだろう?」
人数だけはそっちが勝ってるみたいだが。
露骨に相手を嘲り、相手を挑発する。稲光のたびに仲間が減っていることに怖気づいた襲撃者達は、そんな言葉で容易く動くほど単純ではなかったようだが、激しているのは空気で伝わる。
街について早々の手荒い挨拶を、赤髪は面倒がらずに応じてやった。悪天候に乗じ、こちらが酔っているところを無言で斬りかかって来たまでは上出来だろう。殺気さえ完全に消せていたなら。
壁にもたれて戦況を冷ややかに見守っている副船長は、冷静に分析する。彼らの誤算は、どんなに酔おうと、赤髪が赤髪であることに変わりない事実を知らなかったことだろう。例え今日、身をもって知ったところで、後悔する暇はないだろうが。
稲光がほんのわずかの間、周囲を照らす。しとどに濡れた髪が風に嬲られるが、赤髪が気にした様子はない。
黒い外套は、赤髪に対峙する連中にしてみれば不吉の象徴だったかもしれない。赤髪を隠す麦わらは海賊には似合わずユーモラスだが、今では不吉を強調するアイテムにしかなっていないだろう。
稲光。
轟音。
続いてまた稲光があたりを照らした時には、赤髪は副船長を振り返り、微笑んでいた。副船長は長身を委ねていた壁から身を起こす。
「早かったな」
「あんまり待たせて風邪引かれても困るし」
剣呑さを雨で流したように、二人は連れ立って路地を歩く。雨が激しく、少々大声で喋らねばならない。
「早く宿であったまんねェと、風邪引くな」
「すぐそこだ」
他愛のない会話は水に流されていく。
残されたのは、
閃光。
轟音。
雨。
風。
闇。
そして幾つかの、沈黙。