え、と不審そうに振り返った顔に、坂井はもう一度同じ台詞を繰り返した。
「だから、痩せただろ」
「……何故?」
小首を傾げる下村の、裸のままの腰を引き寄せる。抵抗はされず、大人しく腕に収まってくれた。坂井の体の向こうに手を付き、覆いかぶさるようにしている。
顔のラインを掌で撫で、背を撫でる。
「触ってりゃわかる。痩せただろう。一人な時もちゃんと食べてるのか?」
「食べてるさ。おまえがいない間なんて、おまえがいる時以上にな」
何しろ誰も彼もが食事をしているのか不審がり、会う人遭う人が何かを食べさせようとする。
「ドクや叶さんはいつものことだけど、秋山さんや宇野さんまで、顔を合わせたら『何か食ったのか』だぞ?」
まるで子供扱いだと下村は憤慨するが、こればかりは仕方がないと坂井は思う。なにしろ下村は、放っておいたら確実に何も食べようとしない。本人は「食べようとしないんじゃなくて食べるのを忘れるんだ」などと言うが、どうすれば三日も食事を忘れることができるのだ。その話を聞いた時、この男には人間の本能すらなくしてしまったのかと呆れたものだ。
本能以前に、食わなければ生活に支障がでるはずなのだが――思考力や行動力が低下するとか――、不思議とそんなことはないらしい。もっとも傍目から見れば、下村はいつも何を考えているのか、あるいは考えていないのか、さっぱりわからない男なのだが。
下村の頭と背中を撫でながら、坂井はこっそり溜息をついた。
皆にそれほど心配されるその理由を、下村はわかっていないに違いない。
「ただでさえ太りにくい体質なんだからさ」
それ以上痩せられたら抱きしめた時に骨で痛いだろ。
直後、腹筋に入れられた拳に、坂井はむせた。