048/メモ

 賑やかな酒場に不似合いの深刻な雰囲気。風体はいかにも堅気には見えず、純粋に酒を楽しみに来た街の者なら関わりを避けて遠巻きにするのが利口。その判断は正しい。彼らは立派な――そう表現するのもおかしなものだが――海賊、しかも大海賊団の幹部だった。
 紙切れを前に大の男が三人、頭を寄せ合って真剣に睨めっこしている。そんな様は傍目には滑稽あるいは不気味だったに違いないが、本人達にしてみれば、別に他人に笑いを提供するために集まっているわけではない。もっとも、彼らを笑う度胸のある人間は、ひとまずこの場にはいない。
 紙切れには子供が書いたような字で短く、書いた人物の用件を伝えていた。
 
 三日後に帰らなかったら先に出ろ。赤
 
 赤というのが何者かという討論はなされない。その文字は見慣れたものだったし、その場にいる三人へ居丈高に命令を紙切れで寄越せるのは、この世にただ一人だ。
 討論の焦点は、手紙の主が今どこにどんな状況にいるのか、という点に尽きた。
 ドレッドヘアの男が、疲れたように椅子の背もたれに体を預ける。
「最後にお頭を見たのがどこだって?」
「花屋。そこの店員が届けてくれたんだ」
「……そいつはお気の毒に」
 心底同情する、とヤソップがグラスを傾ける。隣に座る巨漢、ルゥも骨付き肉にかぶりつきながら頷いた。
 メモを手にしたベックマンすら彼らに同意だ。人よりほんの少しだけ気の良かった店員は、そのためにこんな伝言を恐ろしげな風体の男たちへ届けねばならなかった。ベックマンの前にやってきた彼がわずかに震えていたのは、仕方がないことだ。酒屋ならばともかく、花屋などおよそ海賊とは無縁だろう。
 ともあれ、その花屋の店員が震えながらもこうしてメモを持ってきてくれたおかげで、船長の意思は幹部へと伝えられた。そうでなければあの気ままな男の行動は掴めなかったに違いない。とはいえ、まるきり内容を欠くこの伝言では、この文字を書いたのがシャンクスだ、ということしかわからないのだが。
「何やってんだかなァ」
 伝言を寄越したということは、一応集合日時に間に合わないかもしれない状況を考慮してのことだろう。以前に比べれば学習したと言って良い。しかし、根本は変わらない。
「こんなメモみたいな伝言寄越したところで、おまえさんの気苦労は変わらないからなあ」
 目の前に座り苦い表情をしているベックマンに「ホント、苦労性だよ」とヤソップは笑った。勿論、この後船長の行方を副船長たるベックマンが探ることは見越した上で。
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