039/証明

 数十時間ぶりに船内の報告を受け、ベックマンは発すべき言葉を持たなかった。代わりに肺の奥からの溜息が漏れる。
 たかだか二日だ。
 太陽が二度巡るだけの間に、どうしてこうも無法地帯と化すことができるのか。筆頭たる人物の姿は容易に思い描けるだけに、何やらやるせなくなってくる。
「副船長、何か言ってやらねェと、そいつ固まったままだぞ」
 揶揄を底に秘めた台詞を放って寄越したのは、船内一の狙撃手だ。にやにやと笑っているが、どうせこいつも共犯なのだと思うと腹立たしさは倍増される。
「おっと、睨んでくれるなよ。おれ達は一応、止めたんだからな」
「そうそう。止めきれなかっただけで」
 悪びれながら言ってくれれば可愛げもあっただろうか。しかし何より腹立たしいのは、主犯たる船長がちっとも悪びれもなく目の前にふんぞりかえっていることだろう。
 説教は、するだけ無駄だ。わかっているだけに、効果的な罰を与えねばならない。本来なら罰されるはずのない地位の人間を罰するというのも、おかしな話なのだが。
 ベックマンは重々しい溜息をつき、海賊団の名を冠した船長を見た。
「全員、今日から三日間、禁酒だ」
 さすがに予想外だったのか、船長は勢いよく立ち上がり「オーボーだ!」とのたまう。ベックマンは苦虫を噛み潰したような表情のまま、何が横暴なものかと胸の中でだけ毒づく。
「職務怠慢、騒動引き起こし、かつ扇動、事実隠ぺい工作、食料食い荒らし。他にもまだ余罪はありそうだし、これくらいが適当だ」
 南極ですらこれほど冷たくはないだろうというほど冷徹に言い放つと、反論は聞かぬとばかりに船室へ戻ってしまった。
 たかだか三日間、されど三日間。
 さて彼等――ことに船長は、大人しく刑に服してくれるだろうか。とはいえ、服してくれぬのであればリーダーとして失格だろう。連帯責任を皆にとらせたとはいえ、一番地位のある人間がアレではやや困る。
 三日の間、仲間の気を紛らわせるには何をするべきかと、気苦労の多い副船長は頭を悩ませはじめた。
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