肌寒さに目を覚ました。体の節々が痛いのは、床へ直に寝ていたせいだろう。何故また床で、と自問しかけたところで、原因を思い出した。
昨夜は仕事が終わり、帰ってきて食事やシャワーをした後、そのままリビングでいたしてしまい、どうやらそのまま寝入ってしまったらしい。素っ裸の上に、毛布一枚だけかかっている。毛布をかけてくれたのは坂井だ。当の本人の姿は、見える範囲には見あたらない。
寝転がったまま伸びをし、固まった筋肉をほぐす。脇には脱ぎ散らかした服が畳まれていた。これもやはり坂井がしてくれたのだろう。
下村は起き上がるとバスルームへ向かった。冷えかけた体を暖めたかったのもあるが、熱いシャワーでも浴びないことには、どうにも頭がしゃっきり働かない。
シャワーを浴びながらバスタブに湯をはる。体はタオルで一応拭われているようだったが、きちんと洗わねば気が済まないのは性分だろうか。目立たない位置に残された欝血に、溜息と苦笑が漏れる。幸い薄らとしか付けられていないため、二日もあれば消えるだろう。明日店で着替える時には、気を付けなければならないかもしれないが。
体を洗い流し、湯の少ないバスタブに身を沈める。自然と溜息のような吐息が漏れ、バスタブの縁へ頭を預ける。
坂井と夜を過ごすようになり、朝も同じ布団で目覚めるようになった。初めは、起きた時に隣に坂井がいることに驚き、違和感を感じたものだが、今ではいることが当り前になってしまっている。だから今日のように目覚めて隣が空になっているのは――それぞれの家へ帰った夜でない限り――ひどく珍しい。
下村は今度こそ溜息をつき、目を瞑った。
いつの間に、あの男はこんなにも自然に自分に浸透していたのか。あの男がいることが、こんなにも当り前になってしまっていたのか。
気付かないほうが良かっただろうか。気付いて良かったのだろうか。
そんなことを思う程度には、坂井が自分の中の何割かを締めていることに、改めて気付かされる。それを嫌とも思っていない自分がいることにも。
たかだか供寝した朝に彼の姿がなかった、という事実は、下村にとって存外衝撃的だったらしい。
「下村? 風呂か?」
バスルームの外からかけられた坂井の声に、うっかりと涙が零れそうになってしまうほどには。