戯れを装って口付けようとした。ら、
「それ以上俺に近寄ったら斬る」
と言われた。
未来の大剣豪の眼は閉ざされているが、気配で俺が近くにいるというのはわかっているらしい。
ああこいつほんとにあと一歩近付いたら容赦なく俺を斬るな。
思ったけれど悪戯心を止められず。
ちゅ
と、首だけ伸ばして口付けてしまった。
反射的に避けて大正解。俺が一瞬前までいたとこには、刀がブッ刺さっていた。
「……本気で殺す気だったな……」
「ったり前だ!」
真っ赤になって俺に愛刀を突きつけてくれる。そんな表情や空気はきっと、その辺の賞金稼ぎや海軍の下っ端連中だったら震え上がったのかもしれない。
けどまあ、そんな顔もコイツに惚れてる俺にしてみれば、「あら照れちゃって!」という程度のものでしかない。言うと、案の定脱力してくださった。
「……馬鹿だろ、おまえ」
「ま、賢くはねぇだろうな」
なにしろこんなゴツい男に惚れてるんだから。頭の回線の一本や十本がイカレちまってたとしても、不思議はない。
「でもおまえ別に、俺のこと嫌いじゃねぇだろ?」
「てめ……!」
しまったストレートに訊きすぎたか。
思ったが、熟れた林檎より真っ赤な顔晒してちゃあ、否定になってないと俺は思うんだけどね。
そんなひねくれたとこも好きだけどさ、たまには素直に頷いて欲しいと、打たれ強い俺でも思ったりするんだけどな?