027/素肌

 坂井の体には、案外傷が多い。腕にはかなり大きな縫った跡があるし、バイクでこけた時に作ったとかいう傷もあれば、荒事に関わったために負った怪我もある。
「勿体無いなあ」
「なにが?」
 呟きを聞きとがめられるとは思わなかった。下村が横を向くと、眠たそうに首を傾げた坂井と目が合った。
 互いに裸で転がったまま、汗の引かぬうちから煙草を吸っている。寝煙草は危ないというルールは、さりげなく無視されていた。
「怪我多いだろう」
「ああ。って、女じゃないのに気にしねえよ」
 笑いながら煙を吐く。その肩あたりを見つめながら、下村は「それでも勿体無い」と口の中で呟いた。
 傷のない背中に掌をあて、撫でる。
「肌、気持ちいいのに」
 傷痕に邪魔されるのが悔しいのだと言えば、坂井は一瞬の沈黙の後に笑ってくれる。我ながら馬鹿なことを言ったという自覚があるので、下村としては言い返せない。
 下村の腹の上に置いた灰皿で火を消すと、上機嫌で右手を引っ張る。下村も同じように煙草を消すと、引かれるがまま坂井に口付けた。
 ほんのわずか唇を離すと、
「おまえの肌のほうが気持ちいい」
 口元だけで笑いながら、また口付けてくれる。
 こういう感触が好きなのも、こいつと寝る理由だな。互いにそんなことを思いながら、戯れがエスカレートしていった。
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