シャンクスの赤は、一つの色に留まらない。
船首に座り、柔らかな海風と明るい陽光を受けてなびき、輝く髪。
戦闘で誰より早く敵船に乗り込み、血のようにも見える髪、剣の切っ先から滴る血。
夜、興奮を引きずったまま俺をベッドへ誘い、シーツに散らばらせる髪。
どれも同じ人間の髪でありながら、同じ色ではない。瞳の輝きすら違う。
青に映える赤、白を染める赤。
生物の血の色。
それを振り撒き、飛び散らせ、吸い取り生きる男。
「何、見てンだよ」
声で引き戻された。
さりげなさを装い、指に挟んだ煙草の灰を落とす。また咥え、吸い込んだ。
「自意識過剰じゃないのか」
「オレが自意識過剰なら、この世には相当鈍い奴らしかいねぇことになるな」
おまえの視線は刺さるんだ、と船縁から乗り出すように海を眺めたまま寄越す。
くるりとこちらへ向き直ると、俺の顔を覗き、首を傾げて笑う。
「見惚れてたわけじゃあなさそうだけど? 意見があるなら聴くよ」
まさか本当のことなど言えるはずもない。
誤魔化しの意味で薄く微笑し、首を振る。シャンクスはつまらなさそうに口を尖らせた。子供の仕草だが、この男にはそういった、どこか悪童めいた仕草が似合う。
「ケーチ。ま、いいよ。どうせロクなことじゃない」
「わかるのか?」
「他ならぬ、おまえのことだぞ?」
光に輝く赤い髪の下、深海色の双眸に剣呑さが加わる。
「昼間じゃ言えないようなことだろ?」
夜、おまえの部屋で聴いてやるよ。
こちらの都合など一切お構いなく不遜に言って寄越すと、手をひらひらさせて船内へと姿を消す。
夜まであと何刻あるのか、俺は太陽を仰いで時間を計った。