019/方程式

 まあ、そうだな。こいつの言う通りにすれば、楽に勝てるだろう。それくらいはわかる。オレがそれを決めることで、仲間の負担も危険も消える。それも理解できる。
 けどなあ、それじゃつまらないんだよ。つまらないってだけで仲間の命賭けさせていいのかって、こいつは反論するだろう。正論だよな。文句のつけようがない。
 オレの好きなやり方じゃないってことも、こいつはわかってるはずだ。何しろ付き合いだけは長い。四六時中顔突き合わせて、よくもまあ飽きないもんだとテメエで感心する程度には長いな。
 だったらわかるだろう。オレが真っ向からやりたがってること。
 ちょっと待てよ……ってことは、その方法まで考えてるはずだよな。それくらい予測の範疇のはず。何しろいつも卒なくどんな状況にも応じられる手を考えている男だ。当然、選択肢のひとつにオレがそう言うってのも、あるはずだ。その先の方法まで。
「お頭。聴いているのか?」
 笑ったのがバレたかな。でも、タイミングとしては絶妙。いい所で振ってくれたよ。
「聴いてる」
「今言った通りでいいか?」
「正面から当たりたいって言ったら?」
 瞬間、渋い顔をしてくださりやがった。多分「やっぱり」って諦めもあるだろう。
 ヤソップやルゥは「言うと思った」と爆笑だ。ボウシとメガネは爆笑しないまでも、肩を震わせて笑っている。
 こいつらが思ってたってことは、こいつが先読みしていないわけはない。オレがやりたいと言ったことを、こいつが本気で邪魔するなんて、まずありえないから。
「正々堂々戦いたいってことか?」
「違う。その方が、勝った時に気分が良いだろう?」
「……気分か」
「気分さ」
 オレを含めた幹部全員の視線がベックマンに集中する。大きな溜息を一つ吐くと、優秀な副船長様は小さく頷いてくれたのだった。
 セオリー通りはつまらないって、こいつもいい加減悟ればいいのに。
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