焼け落ちた家、荒れた畑、命の感じられぬ荒涼。
それらはどこか白黒写真を連想させる。空を覆った厚い積乱雲が、いっそう現実味を薄くさせた。
こいつは酷過ぎる、とシャンクスの背後でヤソップが呟いた。神妙な表情で仲間も頷く。
焼けたのは家だけではない。焦げ、炭化した柱や瓦達をよくよく見れば、中にはおそらく人であろうと推測できる形をしたものもあった。大きいものから、小さなものまで。中には刃物で斬られたと思しき傷が残った遺骸もあった。人為的な被害でなければありえない爪跡が、あちらこちらに残っている。
焼け跡は、そんなに風化してはいない。助けを求める形で伸ばされたまま焦げた腕が、最近起こった惨事だと教えてくれている。
シャンクスは険しい表情であたりを見回していたが、ようやく振り返った時には幾分表情を和らげていた。
「――帰るぞ」
補給は別の港で。
船長の言葉に、皆揃って町だった廃墟へ背を向ける。
副船長は彼等の後ろからゆっくり、船へ戻った。海賊である以上、善人を気取るつもりはなかったが、やはり気分の良いものではない。この町を復興させるのも犯人を捕らえるのも、軍や警察の仕事だ。妙な感傷にひたる間に、次の補給地を考えることが今の己の仕事だろう。
不意に肩を叩かれた。振り返ると、シャンクスが真顔でベックマンを見上げている。
「賑やかな町がいい」
胸糞の悪さが飛ぶような、陽気な町がいい。
ベックマンは頷き、脳裏に近海の地図を描いた。