最初は痛かった。ちくちくすると思った。だが気にして目をいじる内、段々痒いような気がしてきたのだ。
ベックマンが船長室をノックしたのは、丁度その時だった。
「おう、どうした」
訪れたベックマンを振り返ることなく、目を擦る。気付いたベックマンに右手を取られたが、痒みが収まるわけもない。
「離せ」
収まらぬ痒みにじたばたと暴れたが、ベックマンには通じない。掻きたくても一本きりの腕を抑えられては、掻きようがない。
「擦るな」
そう言われても、痒いものは痒いのだから仕方がない。こうしている間にも、痒みは増しているように思える。
ぎゅっと目を閉じたまま腕をふり解こうとするシャンクスに溜息し、ついで抱き寄せた。
「大人しくしてろ」
腰と顔を掴まれた、と思うと眼球に今までにない感触を受けた。にわかのことで、身体が硬直する。
目玉と目蓋の裏を舌で舐められているのだと気付いた時には、柔らかくて濡れていて暖かい感触は離れた。
「……睫毛が目に入ったんだろう」
ようやくシャンクスの身体を離すと、ベックマンは笑って目よりも赤い髪をかき混ぜるように撫ぜた。
くそ、と呟き、シャンクスがベックマンの腹筋を軽く拳で叩く。
「不意討ちするな!」
ヘンタイ。
罵っても、ベックマンは喉の奥で笑うばかりだった。