006/りんご

「これはオマケだよ」
 と露店の主人が笑いながらくれたのは、真っ赤に熟れた林檎だった。
 シャンクスは片手に荷物を一杯抱えていたが、「ありがとう!」と愛想良く返すと、荷物を連れに押しつけ、林檎を受け取った。シャツで林檎を拭うと、迷いなくかぶりつく。ベックマンが声をかける間もなかった。
「ん、うまい」
 上機嫌で林檎を平らげていく所を見ると、毒は入っていないのだろう。
「……老若男女問わずもてるな」
 店を冷やかし、何かやりとりしては「オマケだ」と何かを渡される。先ほどから今の林檎で五個目だった。
「いい人が多いんだろ」
 鷹揚に笑うと、芯だけになった林檎を紙袋に入れた。ゴミを道端に捨てないのは感心すべきポイントだろう。
「平和な町だってことだ。いいじゃねぇか」
 ここなら少しはのんびりできるだろう。背高い男を振り返らずに笑う。
 男は内心を見透かされたような気がして苦笑した。落ち着ける町を探していたのは事実だ。すっかり癒えたように見える左腕が、事実そうであるかはわからないからだ。
 どこまでシャンクスが腕の痛みを堪えているのか、ベックマンにはわからない。わからないからこそ、暫くの休暇を提案した。今は腕を食われて半年目に入った頃である。
「心配し過ぎだよ」
 痛い時は痛いって言うさ、と笑うのを信用してはいけない。彼が痛みを訴えるのは大抵、本当に薬に頼らねばならない時だ。そして薬がないのを見越したように夜中、部屋を訪れてくる。
「なぁ」
 宿に着いたぞと振り返る。二人きりでとった宿は、ペントハウスのように自炊ができる。
「前にお前が作ったヤツをもう一回食べたい」
 とねだられ、結果がベックマンの両手に抱えられた紙袋だ。これなら数日はもつだろう。
 鍵を開けて部屋に入る。中から鍵をかけて振り返ると、不意討ちのキスをされた。
「オカエリ、ハニー」
 おどけて言われ、苦笑してしまう。一緒に入っておいて、おかえりも何もないだろうに。
「タダイマ、ダーリン」
 言葉とキスをかえす。
 林檎の味がした。
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