フーシャ村での赤髪海賊団憩いの場・パーティズ・バー。
昨晩の狂乱から一夜が明けた昼。ある者は二日酔いの頭を抱え、ある者は迎え酒し、別のある者は肉に噛じりついていた。
宴の主だった赤髪もまたその場にいたが、気分は店の表の空のように快晴とは言えなかった。彼も仲間同様、二日酔いに苦しめられていた。酒場の女主人がいれてくれた水を飲むと、テーブルに突っ伏す。
彼の隣には、副船長がいた。こちらは二日酔いなど縁のないザル(シャンクスに言わせれば『枠』)のはずだが、表情は他の誰より苦い。
溜息をつくベックマンを前に、シャンクスは反省の色をまったく見せていないのも、悩みの種であるに違いない。
「……人の話を聞いているのか」
「聞いてるとも」
鷹揚に言うから余計、説得力がない。
「右から左へ抜けていたら意味がないって知ってるか」
「よくわかったな」
並の者なら震えあがる副船長の冷ややかな視線を、船長はさりげなく視線をそらして受け流した。副船長はその耳を摘み上げる。
「いっ……! いたっ、痛い! 放せっ」
船長の抗議は勿論無視だ。
「こんな程度、『痛い』に入らねェだろう」
大概あんたは懲りるという言葉を知らなすぎる。
くどくどしい説教が始まりかけた時、それを遮ったのは酒場の女主人だった。
「副船長さん、もうその位にして、食事でもどうぞ」
「いや、」
「壊れた備品のお代は頂きましたし、私の方はもうそれだけで充分です」
副船長の長々しい説教から解放されると、シャンクスが目を輝かせた時に「それに」と言葉を次いだ。
「この次、またこんなことがあったら、船長さんだけ出入り禁止にすれば良いだけのお話ですから」
「…………」
その場にいた全員の視線がカウンターへ注がれるのは、ごくごく自然の成り行きだったに違いない。
皆の注目を集める中、シャンクスは勢い良く頭を下げた。
「……ゴメンナサイ」
だからどうか出入り禁止だけは、と泣く子も黙る海賊頭に訴えられ、女主人は「次はわかりませんよ」と美しく微笑んだ。