「HA!出やがったな、アンタが最近ここらで噂んなってる吸血鬼か」

「む?何の用……、……………」

「アンタを退治するに決まってんだろ。この格好見てわかんねぇか?俺はアンタら化けもんの宿敵の…………オイ。何だ、何かいきなり近くねぇか」





「─────う、美しい……──」



「…………、……………は?」
















bloody sweetheart 1

















政宗の住む街は、昔は中世ヨーロッパのような品ある住宅の建ち並ぶ、穏やかな場所であった。
しかし数百年前からそこには魑魅魍魎が住み着き、人々を襲い始めた。
ある時は人が次々と食われる事件が続き、ある時は若い女ばかりが何人もどこぞへと連れ去られた。
しかし人々も、当然黙ってばかりではない。
神から特別な力を授けられた家系の者らへ希望を託し、そういった化け物の退治を頼むようになった。

政宗はまさにその家系の者であり、彼は神学校を出た後神父となって日々化け物退治に奔走していた。
そして最近男性の血ばかりを狙い、その上吸血の量をその者が死なない程度に留めている妙な吸血鬼を退治して欲しいと市民から依頼を受けた。



─────はずだった。



「のに、何でアンタがうちに居んだよ…!!」

「…んん……」



そう、ここは教会に併設されている政宗の私宅であった。
昨夜は何故か顔を合わせるなり己を口説いてきた相手に闘う気をなくした政宗は、その吸血鬼らしきものを放置して真っ直ぐ家に戻ったはずであった。
しかしその吸血鬼は余程政宗のことを気に入ったのか、しっかりと後をついてきていたのだ。
朝政宗が目を覚ますと、すぐ隣には招き入れたはずのないその吸血鬼がすやすやと眠っていた。
白のシャツに首元へは紅のリボン、黒いスーツとマントを纏ったまま己を抱き締めそれはもう心地よさそうに。
尖った犬歯の覗く唇から涎さえ垂らしている。
聖職者としてそこまでされていた事に気付かぬのは如何なものか等の思考はさておき、政宗は幸村の顔面にめり、と容赦なく肘鉄を食らわせた。



「むおおおぉっ……!!!?」

「Shit!何なんだよアンタ!!出てけ!!」



打撃を喰らえば流石の吸血鬼も目を覚まし、両手で顔を押さえ木製のベッドを軋ませながらごろごろと藻掻き苦しむ。
政宗はそそくさとベッドから起き上がり敵であるはずのそれは放置したまま、ボクサーパンツしか肌を隠すものを装着していなかったところに真っ黒のズボンと、それと同色の聖衣を纏う。
首から竜の巻きついた銀の十字架を下げた辺りで、知らぬ間に吸血鬼がベッドの上へ正座しそわそわしながらこちらを向いていることに気付いた。



「おはようございまする!」

「アンタ、そんなに俺に退治されてぇのか…?」

「とんでもない!そ、某はそなたに心を奪われたのであって……」

「…ま、何でもいいや。死ね」

「うおおおぉ冷とうござる…!!!しかし、そのようなところも素敵だ!」

「…………………」



十字架を構えるだけ構えてみた政宗であったが、目の前の男が頬を染めてもじもじしながら熱視線を送ってくればやはり闘う気も失せる。
政宗は溜息を吐いて十字架を持った手を下ろし、キッチンへと足を向けた。
さすればその男も後をついて来る。



「某、幸村と申す!そなた、名は何と言う?」

「さーあ、知らねぇな」

「おぉっ、政宗殿と仰るのだな!素敵なお名前ですなぁ!」



気付けばテーブルに置いてある手紙の宛先まで盗み見ている。
それでも極力無視をして朝飯を作ろうとした政宗であったが、まな板に向かったところで後ろから抱き締められ、とうとう我慢が出来なくなった。



「……政宗殿、是非とも某の伴侶に…」

「うっ……ぜぇえええええ!!!!」

「ぎゃあああぁ!!痛い!痛いっ!!!」



政宗は幸村の足をダン!と靴裏で思い切り踏み付けてはぐりぐりと捻りをも加えた。
しかし、幸村は一向に政宗を離そうとしない。
幸村は痛みに耐えながら、政宗の耳元へそっと唇を寄せる。



「うぅ………某はこれでも、ここ一帯の化け物をある程度統括しておる身。そう邪険に扱ってよろしいので…?」

「何!?…って、アンタみてぇな間抜けがbossなワケねぇだろ」

「それが本当なのです。某は他の吸血鬼らと違い明るい内でもこうして活動出来る。十字架を目の前にしただけでは痛くも痒くもない上、ここの神聖な空気も平気だ」

「………まぁ、力は強いみてぇだな」

「某を近くに置いて下されば、下の者には人間を殺すなと厳しく言うておきましょう」

「Ha、吸血鬼の言葉なんざ信じられねぇな」

「…信じてくだされ。某は政宗殿を出し抜く気などない。本気でお慕いしておるのだ。その証拠というのも何だが、某は至極腹が減っているにも関わらずそなたの血を吸っていない」

「……………」



図ったようなタイミングで、幸村の腹がぐうと一つ鳴った。
己の肌に視線を注ぎながらごくりと唾を飲み込む音もしっかりと聞こえた。
政宗は己の首筋を撫でてみると、確かにそこには痕も何も無い。

そこで漸く政宗は、幸村の足を踏みつけるのを止める。



「………ま、そこは信じてやってもいいが」

「おぉっ!有難うございます!!」

「アンタは人も殺してはきてなかったみてぇだし?」

「うむ!!某殺生は好みませぬ…」

「おまけに何か、化け物にゃ珍しく素直っぽいし」

「おぉっ!!ではお側に……!!!」

「置かねぇ」

「ぐああああぁ期待を持たせておいて何たる仕打ち…!!」



幸村が政宗から腕を解き床を殴りつけながらうなだれていると、政宗は思い切り吹き出した。



「ぶはっ…ははははは!!!」

「ま、政宗殿…?」

「っ…………アンタ、面白ぇなぁ。ガキみてぇ」

「某、子供ではござらぬ!!」



と言いながらも、幸村は不快な気持ちではなかった。
隻眼を細めて笑う政宗が、余りに美しく感じたから。
そんな気も知らず、政宗は幸村の傍らへ屈んでその長い後ろ髪へ指を絡ませくるくると遊び始める。



「…………Ah〜………ま、いいぜ?置いてやっても」

「誠か!!有難うございます…!!!」

「…但し、絶対に人にゃ姿を見られるなよ。妙な噂が立っちまう。それから、これからは殺す殺さないにしろ人の血を吸うな」

「む…………それは……」

「条件呑めないなら、出てけ」

「っ〜……わ…わかり申した!!」

「Good!!いい子だ」



政宗はまさに犬にするように、上機嫌に幸村の髪をわしゃわしゃと撫でくる。
それに幸村は心地よさげに目を細め、頬肉を緩めた。







「あ、あとアンタの身分はpetだからな。そこ忘れんなよ」

「しょう………ええええええぇ!!!!!?」








こうして、二人の生活が始まったのであった。













続く










すみません、結構長くなりそう(自分基準)なので一気には書き上げられませぬ!
10月中に書き終えられるといいな……!!!
予定では3〜4話完結だけれども、予定は未定です。

それと吸血鬼の習性等含め色々とmy設定ですが、ツッコミは無しの方向で……。



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