「うぅ…やめてけろ!」
「Ha!っせぇよ、俺ァ米が食いてぇんだ。今夜はパエリアな気分なんだよ!一俵貰ってくぜ!」
「オラ達が丹精こめて作った米を……ひでぇだひでぇだ!!」
「助けて、あんぱんまーん!!!」
それいけ!あんぱんまん!!
あんぱんまんとは、あんぱんが大好きな正義のヒーローである。決して顔があんぱんで出来ているということはない。
今日も今日とて森の平和を守る為、紅の装束を身に纏い鉢巻を締め二本の槍に乗って空中飛行で巡回中であった。
そこに聞こえた己を呼ぶ幼い女の子の悲鳴に、あんぱんまんは一直線にそちらへ飛んでいく。
すればうさぎのコスプレをした幼女が、あんぱんまんの宿敵・ばいきんまんに泣かされていた。
因みにばいきんまんとは片目を失った顔を母親に疎まれ嫌味でつけられたあだ名であって、決して本名ではない。
事実ばい菌らしき格好もしておらず、身に纏うは蒼の陣羽織。
大きな三日月のついた兜を深く被り、その表情ははっきりと窺い知ることが出来ない。
「大丈夫ですか!うさこ殿ぉおおおお!!!」
「あんぱんまん…!!聞いてけれ!!あいつが、あいつがオラ達の米を勝手に持ってこうとしてるだ!」
「Shit…来んの早ぇな相変わらず。ま、俺ァここで退散させて貰う。Bye-bye
keen!!(keenは特に深い意味なし)」
「待てばいきんまん!!今日こそ尋常に勝負ぅううあああ!!!!」
ばいきんまんは米俵を肩に担いだまま自家用のUFO風の飛行物体へ乗り込み、早速離陸した。
すぐにあんぱんまんは槍へ乗りそれを追いかける。
「じゃむ館様の領地の平和を乱す者は断じて許さぬ!!!」
「暑苦しい上にしつけぇなぁ…」
あんぱんまんはあっという間に彼へ追いつく。
そちらを軽く振り返ったばいきんまんは舌打ちをして手元のレバー引いた。
すると彼の乗った飛行物体の下部から大きな手のような物が伸び、あんぱんまんを叩き落とそうと空を切る。
あんぱんまんは器用にその攻撃をかわし飛行物体の胴体の傍らまで来ると固く握った拳へ炎を宿らせた。
そして容赦なくそれを突き出し…。
「ぐわっ!!?ちっくしょ…!」
胴体部分へ大きく拳を食い込ませると、その一撃が機械の核となる部分を損傷させたのだろうばいきんまんの乗船するそれは真っ黒な煙をあげ地へと落ちていく。
墜落したそれはドーン、という大きな音と共に爆発を起こす。
こうして森の平和は守られた……はずだったのだが。
「………?…オイ!アンタ、何で…!!」
己の行く末を覚悟して目を瞑ったばいきんまんであったが、気付けばあんぱんまんの腕に腰を抱えられていた。
いつそんなことをする余裕があったのであろう、もう片腕では米俵を担いでいる。
あんぱんまんの真摯な眼にばいきんまんの眼帯をつけた側の横顔が映る。
「…もうこのような真似はせぬ、と約束して下され」
「Ha!だーれがアンタの言う事なんざ……つーかとっとと離せ!!」
「!そのように暴れては危っ……!!」
空中で突如としてじたばた暴れ始めたばいきんまんに、あんぱんまんは慌てて体勢を整えるべく努める。
しかしそれも虚しく、あんぱんまんは槍から足を踏み外し二人と米俵は地面へと真っ逆様に向かうこととなる。
地面と激突する瞬間、体を衝撃が襲う。
「痛つつ…………」
「…大丈夫ですか!?ばいきんま…、……!!」
あんぱんまんが自ら下敷きになり衝撃は和らいだものの、ばいきんまんの受けたダメージは相応のものであった。
あんぱんまんが持ち前の丈夫さで無傷であったのとは対照的に、彼は怪我をしたのか片足の腿を押さえながら顔を歪めている。
それがわかるということはつまり、兜が吹き飛びその面が露わになっているということ。
偶然とはいえ己の腰の上へ跨られ、初めてはっきりと目にしたその顔は。
「……美しい……」
「………What?」
心底驚いたような低い声色で、ぽつりと零す。
「某たった今、そなたに惚れ申した」
「は、冗だ………んうっ!?」
あんぱんまんは突然身を起こし、ばいきんまんの唇へかぶりついた。
逃れられぬよう片腕では腰を己の側へきつく抱き寄せ、もう片手は後頭部へ添えてやる。
上下の口唇を口中へ含み甘く吸い上げて彼の唇をねっとりと味わう。
唇の合わせ目からはちゅ、ちゅと湿った音が響く。
突然の相手の行動にばいきんまんは目を見開き驚きを示していたも、すぐに身を捻り抵抗を始めた。
それでも一向に止めようとしないあんぱんまんの肩をがむしゃらに叩く。
「ん…んーっ!んんんーーーっ!!」
「…………兄ちゃん達、何してるだ?」
「……は…、……ぬあっ!?う、う、うさこ殿にはまだ早うござる…!!」
ばいきんまんの抵抗よりも幼女に口づけを見られていた事実に動揺し、あんぱんまんは慌てて彼から身を離す。
うさこに不審な目を向けられながらもどうにか守った米俵を渡してやり、ごまかすようにその頭を撫でて宥める。
そうしてあんぱんまんが少し目を離している間にばいきんまんの姿はそこから消えていた。
飛行物体は故障したまま残されておりどうやって逃げたのか手がかりがなく、後を追うことも出来ない。
「また、お会い出来るだろうか…」
あんぱんまんは立ち上がって青い空を見上げぽつりと呟く。
言の葉はすぐに風に舞って空気に溶けた。
一方こちらはばいきんまんの秘密基地。
「ばいきんまん様、だからあれほど油断はするなと…!!」
「Ah〜分かった分かった、小言はもう聞き飽きたぜどきんちゃん」
「…本当に分かっていらっしゃるのか……、私があそこで助けに入らねばばいきんまん様は!」
「……Shit!!それ以上言うんじゃねぇ。思い出すだけで気分悪ィ…」
頬に傷を持ったオールバックのいかついどきんちゃんは大きく溜息を吐き出した。
それは目の前の彼の頬が、言葉とは裏腹に薄い朱に染まっていたからだ。
つづく
わ!やっちゃった!
凄い背徳感…。
でも思いついちゃったんだ!金曜の夕方に放映してて私の目にとまったあいつがいけないんだ!
最初は幸村→アカパンマンとか痛い名前を考えてたんですがやめました。
その場合弱った時の台詞は「ぱんつが濡れて力が出ませぬぅう〜…」でした。
ある意味破廉恥!
そして政宗は紫の全身タイツ+尻尾と触覚の予定だったけどやめました。
それだと流石にアレ過ぎるからね。
でも全く同じ名前なのは駄目な気がしたので、一応平仮名で。
苦情が来なかったので続き書いちゃいました!
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