赤はちまきちゃん 前編
昔昔ある森に、真田幸村という青年が住んでいた。
青年は大きな目と整った顔立ち、暑苦しくはあるもはつらつとした真っ直ぐな性格から年上には可愛がられ年下からは慕われて、親しみを込めて赤はちまきちゃんと呼ばれている。
ある時、彼は彼の師匠でもあり森の奥で一人住んでいるおばあさん(通称お館様)が床に伏せっているという知らせを受けた。
おばあさんが大好きな赤はちまきは、それを知るや否や家を飛び出し咆哮をあげながら森の奥へ向かって走り出した。
「はあああぁお館様…お体は大丈夫だろうか…!!うおぉおおおおおやかたさばあああああぁっ!!!!」
その叫び声に、森に住む政宗という狼が耳をピクリと揺らして昼寝から目を覚ます。
「Uh〜……っせぇなぁ。人が気持ちよく寝てる時に…」
黒い獣耳が生えた頭をガシガシと掻きながら茂みの中から声のした方向を覗く。
眠い目を擦っていれば、目の前を全身紅を纏い騒音を撒き散らす何者かが駆け抜けた。
速度に慣れている目にははっきりと見えた、程よい幼さが残る端整な面と炎を灯す大きな眼。
そして残像に残るは彼の背後になびく、赤い鉢巻の端。
狼は一瞬にして小さくなったその背中を眺めながら以前耳にした噂を思い返していた。
「……赤はちまきっつーんだったか?確かに評判通り、cuteな顔してんじゃねぇか…」
そこでタイミングを計ったように狼の腹がぐう、と小さく鳴った。
思い返せばもう三日も獲物を見つけることが出来ず、何も食べていない。顔色も悪くなるほどに。
しかも最近あちらもご無沙汰で、正直溜まっていた。
これは丁度良い機会かもしれない。
「あの方向っつーのは…例のばあさんとこだな。……っし、ちいと可愛がってから腹のタシんなって貰うとするか」
政宗は蒼の陣羽織を翻し、愉しげに舌舐めずりをしながら獣のみの知る近道を駆け始めた。
「はぁ、はあ……!具合は如何ですか!?」
途中森のパン屋さんでおばあさんの大好きなプリンを買って来た赤はちまきは、狼に少し遅れておばあさんの住居である小屋へ到着した。
息を切らしながら乱暴に扉を開き、すぐに部屋の奥にあるベッドへと走り寄る。
そこからはゲホ、ゲホと苦しそうな咳が聞こえる。
「ケホッ……Ah…だ、誰じゃ?」
ベッドの中に潜んでいたのは先回りした狼であった。
おばあさんが運良く留守であったのを良いことに、ベッドへ潜り先程の幸村の台詞と様子から推測して今体調を崩しているらしき家主の真似をする。
頭の先までを掛け布の中へ隠し好機の訪れを伺う。
「赤はちまき……幸村です!」
「……ちょっ…………オイ!!」
しかし幸村は狼の思惑に反してバサリと掛け布を剥ぎ取る。
すれば当然政宗の体は幸村の眼前に露わとなって、作戦も何も無くなった。
「アンタは師匠に対して何て態度とってんだよ!!」
計画は狂ったものの、狼は幸村の腕を掴み己と入れ違いにベッドへと転がし、それぞれの手首を押さえつけて組み敷く。
プリンの入った籠が床へ転がった。
明るい室内で、驚き目を見開いた幸村と政宗は互いの顔をじっと見つめ合う。
初めて間近で見る幸村の顔は男らしさと幼い可愛らしさが入り混じり、欲の発散もままならない日々を送っていた政宗の喉がこくりと鳴る。
己の喜ばしい方向へ進む現状に笑みを浮かべ狼がその首筋へ唇を近づけたところ、漸く幸村が口を開いた。
「……狼殿、お体は大丈夫なので?」
「…Ha?ってアンタ、ばあさんの見舞いに来たんじゃ…」
「お館様とはここへ来る途中にお会いしたが、何でも上杉殿に相談したら毘沙門天のご加護があったらしくすぐに治ったとか」
「じゃ、何でここに来た?」
「先程お館様が家へ帰ろうとしたら、青い顔をした狼殿が家へ入っていったのを見たとお聞きしたので…」
「…あんの野郎……何のつもりだ」
「お館様はお優しい方故、体調の優れぬ狼殿をゆっくり寝かせて差し上げようというお考えになったのです」
「Shit!余計な気遣いしやがって…って、じゃあ尚更アンタはここ来なくて良かっただろ」
「……それは」
「…うわっ!!?」
遣り取りで多少気が緩んでいた狼の手首を掴み返し体を捻り、幸村は一息で体の上下を入れ替えた。
政宗はそういう意味で幸村を喰らうつもりでもあったが、逆に喰らわれる気など更々なかったので尻尾と耳を包む毛を逆立たせて暴れ始め
る。
だが如何せんここのところ何も食べていなかったのだ。
力が、出ない。
「おい、何のつもりだ!」
「以前、森の中でお見掛けした時よりそなたのことが頭から離れなかった。そのお美しい姿かたち、強い眼を近くで見たかった」
「……What?」
「狼殿…ずっとお会いしたかった。こうしてそなたに触れたかったのです」
「…それ、は……」
「好きです。某の伴侶になって下され」
恥らう様子もなく真剣な面持ちで気持ちを吐露され、政宗の抵抗は弱まった。
己を貫く真っ直ぐな目に、狼は耳をへたりと伏せ眉を下げて困惑する。
確かに自分も先刻見かけた時に可愛い、程度には思ったがいきなりそのような告白を受けても応えようがない。
目を逸らして黙りこくった政宗ではあったが、幸村の気持ちに歯止めがかかるはずがなかった。
「取り敢えずお体は大丈夫そう……ですな?」
「え、おい………ンンッ!!」
幸村は政宗の唇へ己のそれを重ねる。
対して政宗は反射的にぎゅっと目と口を閉じ顔を反対側へ背けた。
幸村は負けじとまた唇を合わせ、片手を狼の手首から離し顔を背けられぬよう顎を掴み固定する。
それでも口づけを受け入れるものかと唇を噛み締めるどころか自由になった方の手で前開きのジャケットを着た幸村の無防備な肩口を掴み皮膚へ鋭い爪を立て始めた政宗の唇を、幸村は啄むように吸い上げる。
爪の食い込んだ箇所からは鮮血が流れ幸村は当然痛みを感じているはずではあるが、飽くまで彼は優しく、しかし熱っぽく繰り返しその唇を吸う。
「…ん、……っ…」
ちゅ、ちゅむ、と幾度となく施される甘い口づけは次第に政宗を酔わせていく。
幸村の肌に爪を立てる側の手の力が緩み、伏せたまま時折ピクリと上下をする耳は感じてきている証拠であろう。
目許は淡い赤に染まって吐息には甘さが滲む。
それを見計らったように幸村は咥内へ舌を滑り込ませた。
「は……、っン…」
「…ッ…………」
ぬめる熱い舌は顎裏を弄り、動物独特の尖った犬歯へ触れた。
人では有り得ないその形状に興味を持ったよう、舌はその根元や先端をねっとりと辿る。
それがくすぐったいのか、政宗は睫毛を揺らし思わず口を窄めてしまい結果的には幸村の舌をきゅっと吸い上げることとなった。
そのほぼ無意識ながらまるで同意の上の口付けに応えるような己の行動に政宗は一瞬後悔を覚えるも、溜まった欲求に理性は負けてとうとう己からも積極的に舌を絡ませ始める。
肩に在る腕を幸村の首裏へ回して顔を引き寄せ、ザラついた舌の表面同士を擦り合わせ貪り合う。
幾度も角度を変え、その度に唾液が掻き混ざり湿った音が室内へ響いた。
このままでは己にとって不味い方向へ進むのは見えていたが、熱の虜となった政宗は口づけを止めることが出来なかった。
どれだけ夢中で唇を合わせていたのだろう。
いつの間にか二人は身体同士を密着させ、口づけだけで反応してしまった局部を布越しに擦り合わせていた。
互いに相手の硬度を持った熱を感じ合って興奮は一層増し、遂には口づけだけでは足りなくなる。
どちらからともなく、しかし名残惜しさを表すように透明な唾液の糸を引きながら唇の間に距離を作る。
そして双方瞼を上げて欲の色濃い視線をうっとりと絡ませ合う。
先に口を開いたのは幸村であった。
「……狼殿、お名前は?」
「…………政宗、だ」
「政宗殿…凛としているそなたにぴったりの名前だ」
「アンタは、幸村だったな」
「はい。そのお美しい唇で沢山呼んで下さいませ…政宗殿」
くせぇよ、と呟き薄く笑みを浮かべる政宗の首筋へ、幸村は顔を埋めた。
つづく
童話パロが大好きだー!!!
昔からほんっと好きです。
そして中でも赤ずきんちゃんパロはずーっと書きたかった内の一つです。
でも赤はちまきちゃんって、我ながらどーよってタイトルですね。
お話汚しちゃってごめんなさいグ○ム殿…!
はたまた長くなりそうなので、本格的破廉恥は次からです。
その分ちゅうが熱っぽくそしてラブくなるよう苦心しました。
破廉恥も好きですがちゅうも大好きです。
ラブいちゅうラブ!
ベタな展開ラブ!
そして攻める気で居て引っ繰り返される政宗ラブ!
……でも早く破廉恥も書きたい…!!(うずうず)
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