徒恋 1
俺は奥州筆頭独眼竜……いや、元奥州筆頭独眼竜だ。
戦で武田の真田幸村に負け、討死した。
全力で戦った。それに関して悔いはない。
…しかし何の因果か、俺の計画じゃ鳥に生まれ変わるはずだったのに今や何と黒猫だ。
こんなにはっきり前世の記憶があるのもわけ分かんねぇ。
しかも生まれてすぐ病気で右目を失った。
母猫にも見捨てられ、幼い俺は独り縄張りから放り出された。
またかよ。
猫にはなっちまったが、猫なら猫なりに温かさを感じながら生きたかった。
柄にもなく泣きたくなる。
しかし何処なのかわかりもしない山中でいつまでも大人しくしてるのも嫌だったので、人里へ下りてみる。
丁度良い、天下がどうなってるかも見てやろう。
そして一匹とぼとぼと歩いていると誰ぞやの屋敷のような場所へ辿り着く。
武家か?まぁ取り敢えず入ってみるか。往来じゃ黒猫に対する視線が痛くてならねぇ。
ガキに石もぶつけられるし。
…と、垣根をひょいと越え庭へ入ったところで縁側でのんびり団子を頬張る一人の人間と目が合う。
思わず固まる。
尾はぴんと立ち、全身の毛が本能的に逆立つのがわかる。
「……、…………」
向こうも静止している。口には幾つもの団子を収めたまま。
あぁ、アホ面だなオイ。
こいつはこんな顔もすんのか。
――――真田、幸村。
「お主、怪我をしているではないか…!」
石をぶつけられて出来た俺の腹の傷を見て、あいつが駆け寄る。
馬鹿言ってんな、前世俺はアンタに殺されたんだぜ…と心の中で悪態をついている内に大きな手に抱き上げられる。
……ヤバイ、あったけぇ。
胸へ抱えられて、傷の具合を見られる。
耳元で佐助、と部下を呼ぶ声がする。
しかしその間にもここ数日落ち着いて眠っていなかった所為か俺は睡魔に襲われる。
温かな腕の中で、俺は眠りに落ちた。
つづく
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