雲は白リンゴは赤 その後の二人。





 寒さがいっそう増した夜道がほんの僅か、二人の距離を縮めた。
 はあ。と白い息を手のひらにかけては小さく微笑む。
 「なんか、いつの間にか寒くなっちゃったね」
 「…ああ」
 その後、なんとかあの二人を言いくるめ、とりあえず今夜は万事屋に泊まる
ことになったは銀時と自分の家へ向かっていた。



 泊まるにしても着替えや化粧品などの荷物が必要になる。
 そしてその前に部屋がどうなっているのかも気になる。
 このまま住めなくなるのか、それとも修復が可能なのか?
 …それ以前に追い出されそうだ。とが密かに思っているうちにアパートに
着いた。

 「……わぁ…」
 そこは警察と野次馬で人々がごった返していた。
 消防車や救急車なども来ているようだが、幸いなことに今の所ひどい怪我人
は出ていないようだった。…この分だと突っ込んだ張本人が一番重症だろう。
 「やっぱり入れねえか」
 銀時が苦々しげに呟く。
 人込みをかき分け進んでもその先に貼られた立ち入り禁止の黄色いテープと
警察に止められ中へは入れそうもない。
 「事故処理って時間かかるよねえ…」
 「今日は諦めた方が良いんじゃねえの?」
 確かにもそう思っていた。まだ他にもしなければならないことがある。
 職場に連絡するついでに、辰馬の安否も確認したい。
 この際どうしても必要なものは買ってしまうことにした。
 「そーする」
 それに、もう暫く二人でいられると思えば苦にはならない。
 こちらに顔を向けた男を見上げは笑いながら頷いた。

 その穏やかな笑顔に銀時は眼を奪われる。
 先ほど、広げた自分の腕の中に真っ直ぐ飛び込んできてくれた
 忘れたわけではないのに、いまいち現実味が湧かない。
 こんなふうに彼女はすぐ隣で笑ってくれているのに。
 思わず確かめたくなって、その手を引いてしまった。



 「きゃ…」
 来た道を戻り出したは不意に脇道へと引き込まれ、驚いて銀時を見上げた。
 近道なのかと尋ねる間もなく目の前が真っ暗になる。
 「銀時?」
 「…暫く、こーしててくんねェ?」
 頭のすぐ上から聞こえて来る銀時の声。
 ようやくその腕に抱きしめられているのだと気付いたは戸惑い身動いた。
 「でも…」
 「帰ったら神楽や新八が居るだろ?」
 新八に至ってはの身を案じた桂と高杉に銀時の監視を依頼されている。
 「これ以上何もしねーからよオ」
 「…」
 返事をしないを銀時が呼ぶ。
 「
 「…寒くない?」
 銀時の身体に包まれているは暖かいが、風を受けている本人は、さぞ寒い
だろうと思う。
 「あったけーけど?」
 お前が居るから。
 「ちょっとだけだよ…?」
 戸惑いがちに見上げてきた瞳に、銀時の理性はあっけなく焼き切れた。



 「前言撤回」
 の頬に男の手が這う。
 「銀時ッ?」
 「お前が悪い」

 そんな誘うような眼で見つめてくるから。

 呟きが聞こえてすぐ、頬に添えられた手が顎を固定する。
 逃げる間もなく限界まで上を向かされた。
 銀時の身体が屈んで、ゆっくりとその顔が近づいて来る。 
 「ちょ…っ、ぎ…」
 その視線に捕らえられ、は動きを止めた。

 いつも死んだ魚のような眼をしていて、何に対しても本気になる事はない。
 ように見える。
 その男が、今何故こんなにも真剣な眼をして私を見つめているのか。

 理由はわからないが胸に込み上げるのは、たぶん 歓喜。
 他の誰でもなく、この男が見ているのが自分だけだということに。
 耐えられず瞳を閉じて、ほんの少しだけ迷った後おとなしく踵をあげた。
 お互いが少しずつ歩み寄らないと苦しい身長差を覚えていたから。
 「忘れてなかったか」
 鼻先に掛かる吐息が笑いを含んでいるのに気づきの頬に紅が差した。
 「…ッ、銀 背伸びたんじゃない…?」
 「おめえが縮んだんだろ?」
 照れ隠しのような言い合いも束の間、強い力で腰を引き寄せられ、ゆっくり
と覆い被さるように重なる銀時の唇。

 沸き上がる熱に誘われるまま。
 互いの唇を貪り合った。







 「銀時ッ…わたし、…ッあ、ふ…」
 口づけの合間、必死に酸素を求める肺を無視してでも言わなければならない
言葉を紡ごうとは必死に声を出す。しかし一向にそれを許さない銀時の唇が、
離れる度何度ものそれを乱暴に塞いだ。

 許して欲しいとは言えない。
 けれど、どうしても謝りたかった。
 離れるなと言われたのに、愚かな自分はこの男の手を放してしまった。
 心根は誰よりも優しいあなたを、どれだけ傷つけたことだろう。
 「ふ!…んんっ」
 それでもこうしてまた巡り逢う事が出来て、一度は諦めた腕に抱かれてる。
 きっとこれ以上の幸福はない。

 さすがに酸欠になりかけたの指が弱々しく銀時の頬に爪を立て、ようやく
放れた唇が荒い呼吸を繰り返した。
 「ぎ、ん…」
 「…しゃべるな」
 銀時の腕の中は暖かくて、容易には出られそうもない。
 抱き込まれ布越しにその心音を聞く。
 伝わる体温も、素肌同士とは違いゆるりとへ浸透していく。

 それなのに、…いや、それ故か。
 じわりじわりと焼かれていくような感覚がを襲う。
 「なにも言わなくていい。どうせ、もう二度と離しはしねェ」
 「……」
 「だから、諦めろや」
 この真っ直ぐな魂に何度救われたことだろう。

 潤んだ大きな瞳に見つめられ、熱くなる頬を誤魔化すように銀時は眉を寄せ
を睨んだ。
 「…なんか言えよ」
 わざと不機嫌そうな声を出すことしか出来ない自分に嫌気がさすも、覚悟を
決めその眼をなんとか見つめ返す。
 「しゃべるなっていったの銀時じゃない」
 やっと息が整ってきたのか、軽く言い返しながらそっと微笑む愛しい女。
 「じゃあ、だまって頷け」
 「どうしようかなー」
 「ケッ。 素直じゃねえ」
 しかし形ばかりの強気な態度も長くは持たず、男は天の邪鬼な言葉ばかりを
紡ぐ女の頭を抱え込んで胸に押しあて空を仰ぐ。

 「ん…」

 程なくして、こくりと頷いた気配を胸の上で感じ、銀時はようやく心からの
笑みを浮かべた。

 「離さないで。…もしも、また往く先を迷う事があったとしても」
 「…あたりまえだろうが」
 額を合わせて微笑み合う二人の唇が再び重なる。
 まだ暫く口づけは終わりそうもない。





 雲が白いように。
 リンゴが赤いように。
 ただ当たり前にあなたを愛してる。







2007.02.17 ECLIPSE






アトガキ

ハイ!
ようやく終わりましたー!!皆様ここまで読んで頂き本当にありがとうございました!!
長くなりすぎて最後ちょっとでっぱってしまったのは少し心残りですが(5で終わらせたかった)
でも5.5というかたちでいちゃいちゃしてるとこだけ切り離したのも悪くないかなあ。
なんて思い始めてます…(レッツ前向き!)
さて、5でアトガキをちゃんと書いてないのでこっちで少しぼやいてみようと思います。

えー…あんまナイかな(笑)
あ、そだ!ちなみに桂さんはちゃんまだ処女(死)だと思ってますから!余計ーな事
言っちゃダメですよ(笑)銀さん殺されちゃうから(笑)
(お初は攘夷戦争時代です…あのくるくるパーマが手を出してないわけない!)
だから銀時の所に泊まるのをことさら猛反対してたんですねえ。
…そんぐらい?(と、こんなくだらない事しか書けず締めに入る)

そもそもサイトを作った切っ掛けのお話なので、よくかけたなあと自分自身驚いております。
もしよろしければ感想なんてお聞かせください(照)
今後はもう二人は恋人同士(若干問題有)なのではじけていきますよー(笑)