【情事を連想させる5つのお題】



透明な蜜




体の底から溢れ出す、相手を求め、相手を誘う甘い蜜。
それに引き寄せられるのは―― 誰?






秋の澄み切った空を背に、赤や黄色に染め上げられた山々が連なる。
その麓から然程離れていない場所に、今回の依頼主が経営するホテル兼クラブハウスが建っていた。
ホテルを中心に三つのコースが左右に広がり、ゴルフ愛好者にはとても評判の高いホテル。


取引先の社長とその秘書に扮したゲンマとは、依頼主を護衛しつつ18ホール全てを回り終え、再びホテルへと戻った。
今回のコンペは宿泊付き。
流石ホテル王主催とだけあって、招待客一人、一人に客室が用意されており、
時間に余裕があるのならばそのまま泊る事が出来る。
部屋で一汗流してから表彰式。
依頼主の護衛も表彰式をもって完了となる。

「俺達も一旦部屋に行くか。」
「うん。あとは表彰式だけで本当にいいの?」
「ああ、あとはSPに任せるとよ。」

招待客全員がフロントで鍵を受け取り、階段に吸い込まれて行くのを確認した二人もまた、
自分達の為に用意された部屋に向かうべく階段を登る。

「お前、もうちっと本気出してもよかったんじゃねぇ?」
「ん〜だって、あんまり目立たない方がいいと思って。」
「そりゃそうだけどよ。スコアボロボロだろ。」
「アハハハ・・・多分・・・ビリかも。」

遠くを見渡せる忍の目。
並外れた運動神経とセンス。
そしてクナイや手裏剣を正確に命中させるコントロール。
これが備わっているのだから一般人相手に苦戦する筈は無いのだけれど、今日は社長のお供で来た秘書役。
下手な位が丁度良い。

「じゃ、後でな。用意終わったらドア叩け。」
「うん、分かった。後でね。」

向かい合いながらも少しずれている部屋にそれぞれ入ると、二つの扉はゆっくりと閉じた。





―― うわ〜広い。


正面には一枚の絵のように、紅葉した山の見える大きな窓と、ゆったりとしたソファーの置かれたリビング。
その横には引き戸で仕切る事も出来るベットルームがあって。
こちらにも大きな窓があり、とても開放的なダブルのジュニアスイートルーム。


―― 一人で使うのは勿体無いな。


クスリと笑ったはそのままバスルームに向かった。





体の火照りと、生理的な潤いは治まったはずなのに、シャワーの熱が再びそれを呼び覚ます。
相手を失い、一度鎮火しかけた様に見せたそれは、僅かに送り込まれた風によって姿を表して。
ユラユラと儚く、けれど触れれば融けてしまいそうな高温。
早くこの身を焦がし、焼き尽くしてほしいと言わんばかりに揺らめく。

「ん・・・」

無意識に移動した掌が片方のふくらみに添えられ、色づく先端にそっと触れる。
絶え間なく流れるシャワーに愛撫され、体を流れるサラリとした液体に別の物が交じり合う。
それは其処への喜びを潤滑に齎す為の透明な蜜。
カカシによって体内に打ち込まれた見えない楔を感じようと、其処は締め付けを繰り返す。

「・・・カカシの・・・ばか・・・。」

恨み言めいた言葉がの口から漏れて。
『なんで〜』と少し意地悪な顔をして、今、現れてくれないか、さっき後でって言ったよね・・・。
そんな有りえもしない事を期待してしまう。


カカシにしか消せない炎。
それを宿したまま、はゲンマの部屋の扉を叩いた。






表彰式も無事終了し、SPに守られ自宅に戻る依頼主を見送った後、二人はホテルのロビーに入る。

「なんか・・・何にもなくて良かったんだけど、これって任務?って感じ。」
「依頼料付きの接待だった、ってのも在り得るな。諜報の仕事で使わせてもらってるからよ、おっさんのホテル。」
「えっ?もしかして知り合い?」
「まあ・・な。けどよ、護衛ってのも大袈裟な話じゃねーぞ。何回か誘拐されかかってんだよ。」
「そっか、大きいもんね、あの会社。」
「さてと・・・任務も終わったし、軽く飲みにでも行くか。」
「・・・う・・・ん。」

両手を上げて後頭部で組んだ腕を少し動かし、先を歩くゲンマ。
腕を降ろして半歩遅れたを振り返る。

「なんだ?急ぎの用でもあんのか?」
「ないよ。」
「じゃ、態々真夜中に帰る事もねえだろ。帰還予定は明日以降って事になってるしよ。」
「・・・そうだね。行こう!飲みたい気分だし。」


里に・・・部屋に帰ればカカシが居るかもしれない。
でも居なかったら、どうしたらいい?
アルコールで熱を誤魔化して、そのまま眠ってしまおう・・・。


「ねえ・・・ゲンマ。酔っ払っちゃったらごめんね。見捨てていいから。」
「あほか、んな事する訳ねーだろ。したらずっと付き合ってやるよ。」
「ゲンマ優しいね〜。」
「なんだよ、今頃気づいたのか?」


―― 今からでも遅くねぇ。
    俺のもんになっちまえ・・・。

    マジで言ったらお前どうする?


きっとサラリとかわして聞き流すはず。
だけれど、の心には何かを残してしまうだろう。
受け止めてもらえなかった思いは、石となっての心に留まる。
そんな事はしたくない。
今の関係を壊すだけなら秘めた想いで結構。


―― 時々お前の事を想う位はいいよな。


いつか自分にも守るべき者が現れる、その時まで。


―― その前に・・・。
    カカシさん、あんたがを泣かすような真似をしたら、
    そん時は容赦なく奪いに行きますよ。

    まぁ、ありえねーけどな。


出掛かった言葉を、静かな想いを飲みこんで、ゲンマは薄っすらと笑みを浮かべた。

「何ゲンマ笑ってんの?」

今度は少し先を歩くが振り返ってそう言えば、

「お前のスコア思い出したらよ、可笑しくってな。」

いつものガキ大将ゲンマに戻って。

「ひっどーい。」

がストレートに送り出した拳を受け止めて軽く額を弾く。

「痛っ。」
「入るぞ。」

ゲンマの親指が指し示す方向に視線を送ると、其処はもう目的の店。

「は〜い。」

二人の姿はホテルの地下にあるバーの中へと消えて行った。




表彰式を兼ねた打ち上げで多少の下地は出来ているのだが、それでも次々と空になるグラス。
酔いも幾分回り始めた頃――。

「なんかさゲンマ、ちゃっかり入賞してるし・・・。」
「これでも程々にしたんだぞ。」
「まあ、それは分かってるけど。勝負事には負けられない性質だもんね。」
「よく分かってるじゃねーか。」
「でも納得いかないなぁ。」
「じゃ、今度奴らでも誘って此処来るか。招待券貰ったしよ。」

ゲンマがジャケットの内ポケットから出した無期限の招待券。

「あっ、これ入賞の賞品?」
「おう。」
「来よう。休みが取れるといいね。今度は本気出すから。」

いつものメンバーで休暇。
しかも里外なんて到底無理なのは承知している。
だけど、こんな会話を楽しむ位の余裕があったっていい。

「結構お前も負けず嫌いなんだよな。いいじゃんか、ビリは免れただろ。」
「そうだけどさ。ブービーだよ。あんまり変わんない。」
「ブービー賞って意外といいもんだぜ。」

ゲンマはの傍らに置かれた紙袋に目を馳せる。

「そう?ウケ狙いとかの場合もあるんじゃないの?何だろ・・・賞品。」

紙袋の中にはビニールの巾着袋。
それを開けると、透明な箱に入った何やら不思議な物。

「イースターエッグ?じゃないよね。固そうだしな。」

イースターエッグ。
他国の祭で、贈り物や装飾に使う模様の描かれた鶏卵の事。
その中にお菓子などのちょっとしたプレゼントを入れる場合が多いのだが、それにしてはサイズが小さい。

「何かこの中に入っているのかな?」

が箱の中から取り出したのは、釣り餌の様にぶら下がるうずらの卵。
中心は白色、外側は透明。
キラキラとラメが散りばめてあり、内部の白色には装飾も施されてはいるが、どう見てもそれは・・・。

「お前、それ仕舞え!」
「えっ!あっ、はい!」

ゲンマの言葉に慌ててそれを袋の中に押し込む。

「もしかして、それが何か知らねーの?」
「う、うん。」


―― そういやあのおっさん、そーいう商売もやってんだよな。


「あ、あのな・・・大体がピンクなんだよ、それ。此処まで小細工してあるのは珍しい。」
「ふ〜ん、で、何に使うの?」
「実践で教えてやってもいいんだけどよ・・・。カカシさんに殺されたくねーしな。」
「はぁ?」
「用はマッサージ器だ。あとはヤツに聞け。」
「マッサージ器なら別におかしく無いじゃない。小さいからピンポイントでツボ刺激って感じ?」

の最後の一節にゲンマは口から酒を零す。

「大丈夫?」
「お前っ・・・サラっとそういう事言うなよ。」
「何が?変なの。他にも何か入ってるよ。」


―― これ以上変なモン出て来たらどうすんだ・・・。


「あっ、ボディローションが二本だ。ほら。」

袋の中には二本のボトル。
先ほどのゲンマの口調は『こんな所で賞品を開けるな。』という意味に取ったのだろうか?
は袋からボトルの頭だけを出して、ゲンマに見せると、袋に入ったままの状態で裏の説明書きを読み始めた。


―― これはまとも・・・。
    イヤ、どっかで見たヤツだ・・・。
   

脳内住人総動員で記憶の引き出しを引っ掻き回している途中、の言葉でその所在が明らかになった。

「『潤いを貴女に・・・滑りやすくなりますのでご注意下さい。』だって。乾燥してくる時期だからいいね。」
 

―― やっぱり、アレかよ。
    俺を深みに落とすなー!
    マジで腹痛てぇ・・・。


数々の天然発言、の言う通りだったウケ狙いの賞品に、ゲンマは堪らず腹を抱え肩を揺らす。

「無味無臭と、柑橘系?普通こういうのって無香料、無添加とかって書かないかな?
 無臭は分かるけど、何で無味って書くんだろう。食べる人っていないよね。」
「俺に同意を求めないでくれ・・・。」
「流石のゲンマも化粧品には疎い?ちょっと・・・さっきから何がそんなに可笑しいの?」

普通のボディローションにも使えるそれの、本当の使用目的は・・・透明な蜜の代わり。

「イヤ、悪い、悪い。それもカカシさんに聞け。」


―― 俺が、教えてーけどな。


「もう、さっきからカカシ、カカシって・・・。そのカカシのせいでこっちは・・・。」


―― 大変なんだから・・・。
    ずっとカカシの事を考えて、カカシを想って。


「カカシさんのせいで何だよ。」
「カカシが意地悪なの。」
「それに付いては、同意する。」

見つめ合って、吹き出した二人は又、各々のグラスに口を付けた。





「おい、大丈夫か?」
「う〜ん・・・。多分・・・。」
「もうすぐ、部屋に着くからよ。」

ゲンマに支えられて廊下を歩くは、予告通りだが、珍しく酩酊状態。

「鍵、何処だ?」
「・・・バッ・・ク・・・。」
「開けるぞ。」

取り出した鍵で部屋を開けると、二人はベットに倒れ込んだ。




 


あれ?エロくなかった;;ごめんね〜;;
しかも・・・カカシ不在の放置プレイ・・・。
「焦らされると感じるでしょ〜」
との伝言はカカシから預かっていますが、どうなるんでしょうかね。
ちなみにウズラの卵・・・。何だかわかるよね。
ローターでございます。
いいのかな・・・?このままいっても・・・(汗)
ご意見、ご感想お待ちしております。(ペコ)

       かえで