今夜の宿は、小川のすぐ近く。
森の木々に囲まれたそこは、動物たちの小さな広場。
point of focus 中編
ナルトとサスケが魚を捕まえに行きに、サクラは森に落ちる枝を拾う。
クナイで枝を削り、取った魚を器用に刺して。
集めた枝に火遁で火を付けたのは当然の如くサスケで、サバイバルセットでお米を炊いたのはサクラ。
は夕食の準備をする彼等を、もう一つ持って来ていたプライベート用のカメラで写して回った。
「すごいね」と関心しながら、たまには覗きこんで。
周囲の確認と、念の為の簡易トラップを仕掛けていたカカシは、その一部始終を木の上から見ていて。
やはり引っかかる何か。
それは夕食を食べ終えた後、解明した。
生徒達三人は後片付けをしに、小川へ。
カカシは持って来たバックのファスナーを開けて、中身を取り出した。
それを焚き火の周囲に腰を降ろしていたは、静かに眺めている。
でも小さく折り畳まれていたバックの中身が、一瞬にして形を変えたのには驚いて、次には腰を上げていた。
「それ、テントだったんですね」
「ええ」
「テレビで見た事あるけど、本当に一瞬なんだ」
はカカシの隣にしゃがみ込み、形状記憶テント?と笑いながら首を傾げた。
一般人であると、教え子三人を連れての野営。
聴覚、嗅覚のレーダーは常に張り巡らされている状態。
だから敏感に感じ取った彼女の揺れた髪の音と香りは、カカシの中へ容易に流れ込んだ。
やわらかそうで、そして甘くて。
「今夜はこの中で休んで下さい」
「──これはカカシ先生のじゃないんですか?」
立て膝を付いて、テントの調整をしていたカカシの首がに向う。
「あ、つい。みんながそうやって呼んでるから、移っちゃったみたい」
お前の先生じゃないって感じですよね。と、彼女が一人突っ込みを入れる中、カカシの頭の中ではの声が木霊していた。
カカシ───
その部分だけが。
敬称なんて気にしているんじゃない。
初めて名前を呼ばれたのだ。
彼女の声が奏でた自分の名前。
それがこうも胸に響くのかと。
「オレはかまわないですよ」
彼女の声が自分の名を囁くのなら、後に続く言葉は何だってかまわない。
「はたけさん?」
軽やかになった分、とてつもない重力を感じた。
漫画なら、多数の縦線に囲まれているだろう。
でも、彼女は何かを言い掛けている。
「う〜〜〜ん……カカシさん! はたけさんより、カカシさんかな?」
軽くなったり、重くなったり。
名前一つで浮き沈む。
彼女はカカシにとって最強の一般人だ。
「カカシさんって呼んでもいい?」
「それが、イイね。じゃあオレは、さん?」
悪戯に笑ったカカシに、はフルフルと首を振って。
「じゃ、さん」
これには横に振っていた首が縦に変わった。
「決まりね」
名前を呼び合うだけでこんなにも変わる。
受付所で二人の間に出来てしまった低い垣根が今、取り払われた。
「この中に寝袋を入れて寝るといい。夜の森で眠った経験はないでしょ?」
「……うん」
「中々寝付けるもんじゃないよ。オレ達は慣れてるから平気だけど」
「やっぱりそういうもの?」
「こんな薄い幕一枚でも結構かわる。虫も寄ってこないし。どうする? 目が覚めて目の前に蛇がいたら」
「ちょ、それはいやかも。蛇は嫌いじゃないけど、寝込みを襲われるのはいやデス……」
「ね、だからこれ使って。一人が不安ならサクラと一緒に入るといい」
「じゃあ、サクラちゃんと休ませてもうおうかな。ありがとう、カカシさん」
は並んだ自分の膝に組んだ腕を乗せ、隣にいるカカシに微笑みを投げた。
その時カカシの中で、さっきまでは解らなかった何かに、当て嵌まりそうな言葉が浮かんで来る。
これを自分にも向けて欲しかったのだ。
教え子たちの教師としてではなく、向けられる微笑みを。
率先して動き、笑顔を向けられる生徒達に、教師としての喜びは感じていた。
しかし小さな何かが引っ掛かっていた。
あくまでも、この任務の遂行は生徒達がメイン。
カカシはサポートだ。
ランクDでは特殊な場合を除き、殆ど生徒達に任せるようになって来ている。
勿論指揮官は隊長のカカシであるし、四人でしなければやり終えない、時間的に掛る任務もある。
その場合は手を抜きつつ、カカシも参加していて。
それが最近の通常。
でも今回感じた違和感は、通常に隠れた小さな小さなヤキモチ。
生徒達に向けられる笑顔と、呼ばれる名前に。
そしてそのヤキモチが齎すものが何か、この時自覚した。
─── オレもガキだねぇ……
カカシは人差し指で自分の頬を軽く掻く。
相手には何も感ずかれていないけれど、照れ隠し。
少し困った時、照れた時にやるカカシの癖だ。
身体が軽くなって、思わず上がる唇の端に、口布があって良かったと改めて思う。
そして賑やかに帰って来た台風の目、三人。
テントを見つけた三人の内二人が、カカシとの傍に駆け寄った。
もう一人サスケは、焚き火の周囲に腰を降ろして、やはり耳だけは向いている模様。
「あーーテントじゃんか」
「カカシ先生の持ってたバックって、テントだったんですね」
「なーーカカシ先生? もう一つないのかってばよ」
このテントは、自分に宛がわれる物では無い。
それだけは確かだと、ナルトの口調が語っている。
でも砂粒よりも小さな可能性に掛けて、ナルトは聞いてみた。
「あるわけないデショ。これは依頼人のさん用」
「だよなーー」
ナルトは大袈裟に項垂れて、でも次には笑ってる。
どうやら、本気で言っているのではないらしい。
その辺は彼も、一応分かっているのだ。
「サクラは護衛も兼ねて、さんと一緒に入って」
「一緒に寝てくれる?サクラちゃん」
「いいんですか? さん! ラッキーー!」
ナルトに反してサクラはガッツポーズ。
スキップで自分の寝袋を取り行った。
の心に刺さった小さな小さな棘。
それはカカシの言葉。
『 依頼人 』
そうだ、自分は依頼人なんだと、何故か寂しくなる。
何も違わないのに。
カカシの声でそれを聞いたら、心がチクっと痛んだ。
カカシにしてみればその言葉は、自分の生徒に明確な立場の違いを認識させる為。
ナルトに手っ取り早く示す為に使ったに過ぎない。
だから。
の心に小さな影を落とした事には気が付かなかった。
翌日───
今日もお陽様は彼等の味方。
真っ青な空に、ゆらり流れる雲一つ。
西から東へ時計回りに移動して、今は丁度火影岩の裏山辺り。
山の反対側へ行くには、登るか周るかのどちらかで、はぐるりと大回りをする予定でいた。
だけど、地図で見たよりも広く高々と隆起した大地は予想外。
流石、天然の要塞と言われるだけある。
「この山って結構大きいんだね」
山というよりは、巨大な一枚岩。
その垂直に伸びる崖を見上げ、はポツリ呟いた。
「周るより超えちゃった方が早いってばよ」
「そうなんだけど……」
見上げたまま、言葉を濁すを待たずに、三人は彼女を担ぎ上げ、そびえる壁に跳び付いた。
「オイ、オマエ等!!」
「平気だってばよ」
オマエの心配をしているんじゃない。
これはナルトに向けた、カカシの心の声。
昨日の崖とは規模が違う。
幾ら今までの実績と信頼があったにしても、普通の人間が一気に登る高さで無い事は確か。
顔岩の階段なら話は別だが、ここは真っ直ぐに伸びた崖なのだ。
カカシは四人に並走しながら、の様子を伺う。
最初は何かと声を上げていた彼女も、今は無言で瞼を閉じている。
今までに無い浮遊感。
強さを増す風の音と、肌に感じる感触が、目を閉じていても高さを感じさせる。
「さん。もうすぐ着きますよ。頑張って」
カカシが岩肌を見たのは最初に一度だけ。
一瞬でルートを頭に叩き込んだ。
から眼を離さない為に。
カカシの声に気づいたは、瞼を開けてカカシを見る。
でも彼と一緒に入り込んで来た景色に、思わず顔を歪めた。
だけど自分から目を離さずにいる彼女に、カカシは優しく笑い掛け、人差し指で空を指した。
切り立った崖の縁が見えて、青空がどんどん近づいてくる。
その様子にの緊張も僅かに解れたようだ。
「とうちゃ〜〜く!!」
最後に一際大きく羽ばたいた三人は、少しの砂煙立てて頂上へと降り立った。
静かに降ろされたはヘナヘナとその場にへたり込む。
「大丈夫ですか?さん」
サクラが心配そうに声を掛け、次には真横に居たナルトを叱り飛ばした。
「ちょっとナルト!あんた飛ばし過ぎよ。すいません、怖かったですよね」
「……流石に少しね」
隣にしゃがんだサクラに笑い掛けるも、その表情はまだ引き攣り気味。
「姉ちゃん、ごめん」
「大丈夫だよ。ナルト君」
「でもさ、でもさ、早くこの景色を、姉ちゃんに見せてあげたかったんだ」
前に立つナルトが片手を広げ視線を促すように、脇に除ければ。
差し詰めそこは、空中庭園。
真っ直ぐに広がる台地の先には、緑の海に青い空。
「うわ〜〜綺麗」
「だろ?」
息を吹き返したの笑顔に、馬役だった他の二人も安堵の表情を浮かべた。
「少し写真撮っていっても良い?」
「勿論だってばよ」
サスケの持っていたバックを受け取り、もう一台のカメラと変えのフィルムを一本取り出して、は辺りを写し始めた。
それを見ていた三人が各々離散しかけた時、背後から師の声が聞こえる。
「キミたち、後先考えずに突っ走ってくれちゃって」
「カカシ先生!」
仲間の真ん中に立っていたサクラは見上げながら振り返り、ナルトはカカシを見るとすぐに言葉を発する。
「怖がらせちまったけど、結果オーライだったんじゃねぇの?」
うん、うんと頷く他二人。
「あのねぇ……」
はぁ……と大きく溜息を吐いたカカシの表情には、様々な思いが。
呆れと、諦めと、そしてもう一つ。
起こしてしまった事はしょうがないし、生徒達の気持ちも分かる。
見せてあげたいと思った事事態は良い事だ。
だけれど。
「オレの言ってる意味が解らない? 童謡でも歌って待ってろ」
そう言い残しカカシはの元へ歩いて行く。
「童謡ってなんだってばよ」
「さぁ?」
サクラは首を傾げて、サスケが「わらべ唄だろう」と呟くが。
「あんのなーーサスケ、それ位俺も解ってるって。何の唄か聞ーーてんの!!」
三人はその場にしゃがんで、ブツブツと唄らしいモノを口ずさんだ。
「悪かったねぇ、怖い思いさせて」
高山植物を撮り終えたはカカシの声に立ち上がった。
「もう平気」
そう言って笑う彼女もまた、気づいていない。
「あの三人は何をしてるの?」
丸くなってしゃがみ込む三人の姿が面白いのだろうか?
はそれを別のカメラでパチリと一枚写した。
「ん〜〜お勉強」
「お勉強? なんだか可愛い」
「二台使ってるの?」
「あ、カメラですか?」
「そう」
「こっちが仕事用で、こっちは私用です」
プライベート用だと言ったカメラから瞳を離して、片手で持ち上げる。
仕事用のカメラよりは小さくて軽そうだ。
「撮ってあげようか」
顔の位置でが持つカメラを、カカシは静かに掴んで、両手に持った。
「……私?」
「たまにはいいでしょ」
返事も待たずに覗きこむカカシの指は、シャッターを軽く押して。
ピピピと鳴る機械音。
薄っすらとぼやけていたレンズの向こうには、くっきりと見えるの笑い顔。
間近で見つめているような。
見つめられているような。
レンズ越しに目を合わせ、潤んだ唇を捉える。
その途端、彼女の声と共に、姿が離れて行く。
「カカシさん、近すぎ。もう少し離れなきゃ」
後を向いて、パタパタと駈け出して。
「折角だから、この空も入れて下さいねーー」
笑う彼女にもう一度ピントを合わせて、一声掛けるとカカシはシャッターを押した。
直後に感じた気配はいつもの。
「わ〜〜先生、写真撮ってるんですか? 私もさんと撮って下さい」
サクラはに駆け寄って、腕を絡ませて。
己の希望をサラリと行うサクラが羨ましい。
この時カカシが吐いた溜息の理由はコレ。
に目配せを送るカカシの伝えたい事は、撮って良いか。
フイルムの事だと気づいたは笑顔で頷いて、サクラに寄り添いながらポーズを取った。
「よーし、撮るぞ」
カシャリと閉じる音がして僅かな後、カカシはカメラを下ろした。
「で、解ったの? キミたち」
遅れて来たサスケに、それより更に遅れたナルト。
「サスケが解ったってさ」
ナルトが面白くなさそうに腕を組んで話し、そっぽを向いた。
「流石サスケ君よねーー」
サクラの語尾には完全にハートマークが付いている。
それが更にナルトを不機嫌にさせて居ると云うのに。
「そ〜言う、サクラは解ったわけ?」
カカシが教師の顔で尋ねれば、サクラは項垂れて解りませんと答えた。
「問題は下りだ」
サスケがこの巨大な岩の切れ目を眺めて話し始めた。
「行きは良いが、帰りは怖い。そういう事だろう」
「正〜〜解」
同じく縁に視線を送ったカカシが答えて。
サクラは気が付いたようだ。
「あ!!後先考えずってこういう事だったんですね。さんごめんなさい」
頭を下げるサクラに当の本人は未だ気づいていない様子で。
そしてもう一人もまた。
「な、なんなんだってばよ」
「このウスラトンカチが。まだ解らないのか?」
「なんだと、コノーー!!」
「はいはい、ソコ、揉めないっ」
カカシはにカメラを渡し仲裁に入ると、サスケはまた話し始めた。
「行きみたいに、オレ達三人でさんを担いで降りる訳には行かない。あの体勢じゃ飛び降りてるようなもんだ」
「………そっか、姉ちゃん、悪かったってばよ」
生徒達に担がれて降りれば、谷底に飛び降りるのと同じ恐怖を味わうだろう。
例えしっかり守られていても、顔面に受ける風、落ちて行く感覚は消せはしない。
登りでのを考えると、不可能とまではいかないにしろ、かなりの苦痛を味合わせる事になってしまう。
それは彼等も不本意だ。
「言われてみると……そうだね。下りの事なんて頭になかったなぁ」
笑っては語るが、その顔にはやや影が挿し、カカシは対処策をサスケに問う。
「それでどうする?」
「解決策は二つ。此処から南に進めば、顔岩に出る筈だ。そこから階段を使って下山する。だが、かなりのタイムロスだ。陽が暮れちまう」
「それは困るよねぇ〜〜。三日間で一周する予定なんだから、里に戻ってる暇なんてナイヨ」
「だから、もう一つ。……アンタの力が居る」
「オレの力? どうすりゃいいのかな、オレは。サスケ君」
全て解っているくせに、白々しい言い方をする。
全部言わせる気か、この上忍は───と。
サスケは心の中で舌打ち、一方のカカシは上機嫌。
いいぞーーサスケ、その調子と、頭の中では拍手喝采。
「瞬身……。アンタの瞬身の術を使えば、さんに掛かる負担は少なくて済む」
「瞬身?」
「忍者の瞬間移動術の事ですよ。私達まだ使えないんです」
サクラがに申し訳なさそうに説明をして。
「サスケ、冴えてるな〜〜」
こう言ったのは、心の中で“出来の良い生徒を持って幸せだ”と呟くカカシではなく、ナルトだった。
「オマエとココの出来が違うんだよ」
人差し指で自分のこめかみを指したサスケは得意げに笑って、ナルトに油を注ぐ。
「なにをーー!!こっちが素直に褒めてんだ、たまには素直になれっての。あーームカツク」
波の国での任務以来、この手の揉め事が絶えないけれど、お互い好敵手。
それをが感じ取ってるのだから、ほっとけばいい。
でもと思った矢先、が後ずさりをして、その様子をカメラに納めた。
「ほら、笑って、笑って。カカシさんもサクラちゃんも入って。もう一枚」
微弱な磁力で反発し合う様な二人の真ん中には、ニッコリ笑うサクラ。
カメラを向けると、途端に笑顔になるのは彼女らしい。
そしてそんな二人を結び付ける様に、あの時の師同様、カカシはサスケとナルトの頭に手を置いた。
「ハイ、撮りますよーー」
カカシ隊第七班の集合写真が今此処に。
「では改めて。さんはどっちで行く?」
「カカシさんの術でお願い出来ますか?」
「勿論。ただね……」
「ただ?」
「オレに抱かれなきゃならないケド」
こうやってね、と空気を抱えるカカシの両手。
「姫抱きっていうの?コレ」
カカシはそうやって笑っているけれど。
の心と身体は、熱くなったり冷たくなったり、ドキドキしたり焦ったり。
──抱かれる、その言葉は色々な意味を持っていて、反射的に身体が熱くなった。
言葉の意味は分かるのに。
そう捉えていなくても、結びついていなくても、意識してしまった。
カカシが腕を動かすまでの僅かな時間。
そして、悟られてやしないのに。
無意識に激しい拍動を起こす、自分の心臓が恥かしくて。
抱くの意味を正確にカカシが伝えた後は、尚更自分の思考回路が恥ずかしい。
「平気?」
「えっ?」
「オレが抱いて降りるけど」
「はい。お願いします」
「りょ〜かい」
カカシはふわりとの身体を抱き上げて、しっかり掴まっててねと、自分の首に腕を回すように促して。
「じゃ〜〜ねぇ〜〜キミ達。オレ達は先に降りてるから、怪我しないように。慌てなくていいぞ」
「はい」
「姉ちゃん、後でな」
ポワンと上がった白煙と、舞い落ちる木の葉。
満面の笑みを湛えたカカシと、恥ずかしそうに腕を絡めるの姿が消えた。
何かが引っ掛かる。
釈然としない、スッキリしない。
「どうかしたの?サスケ君」
ぼんやり考え込むサスケにサクラが問い掛けて。
「……あ、なんでも……ない」
そう答えながら、“そういう事か”と気づく。
全てはカカシの手の内だったと。
今までの依頼人と、に対するカカシの態度は、どこか違う。
顔見知りだったという事もあるけれど。
その理由は、去り際に見せた笑みと、雰囲気から感じ取った。
きっと隠すつもりもないのだろう。
『 そこまで言うのなら、何故止めなかったのか 』
サスケが引っかかっていた事はこれだ。
自分達のスピードに着いて来れないカカシではない。
止めようと思えば幾らでも出来た筈だ。
なのにカカシはそれをしなかった。
から目を離さず、話しかけ、並走していただけ。
結果的に遠回りする事なく、もこの風景を楽しんで良い事づくめだ。
尚且つ本人はナイト役を気取れる。
生徒に答えを導き出させて、態々に意識させる言葉を掛ける。
“抱えて降りる”そう告げれば良い事だ。
フッと笑うサスケを不思議そうな目をしたサクラが見つめて。
「そろそろオレ達も行くってばよ」
「そうね。サスケ君、行きましょう」
「あぁ」
─── ったく、カカシのヤツ
心で呟きながらも、悪い気はしないサスケであった。
だけれど。
“慌てなくていい” は “早く来なくていい”
だったら早く降りてやる。
カカシの恋愛を邪魔するつもりはないが、ちょっとしたサスケの意地悪だ。
結果的にそれはナルトをも煽り、取り残されないようサクラの足も早くなる。
「負けねえっ」
「待ってよ〜二人共!」
垂直な崖を走り降りる三人を、カカシとは下から見上げた。
2008/02/02 かえで
BGM Luce