月中の締め日と週末が重なり、やっぱり遅くなってしまった。
急いで帰ってきたけれど、玄関の灯りが点いている。
夕方、職場に忍鳥が来た。
『今夜帰る』 と、紙片に乱れた走り書きの文字。
どうしたのだろう。
任務からの帰りを連絡してきたことなど、今まで一度もなかったのに。
「ただいま・・・」
点いていたのは外の灯りだけ。
部屋の中は消し忘れていた常夜灯のみ。
暗がりの中から、「お帰り」と低いカカシの声。
急いで靴を脱ぎ、中に入れば
食卓の椅子にミネラルウォーターを手にしたアンダー姿のカカシがいた。
「おかえり。ごめんね。もっと早く帰ってくるつもりだったのに、遅くなっちゃった。
カカシ、ご飯は?食べる?あっ、忍鳥ありがとう。連絡なんて今まで」
「・・・」
コートを脱ぎながら、まくしたてるように声を掛けてしまった。
カカシに名を呼ばれて、言葉が止まる。
「飯は要らない」
「うん」
「は済んでるの?」
「差し入れのピザ、みんなで食べて・・・だから私も無くて大丈夫」
「・・・風呂が沸いてる・・・入っておいで」
「・・・はい」
テーブルに片ひじをついて掌に頭を乗せていたカカシは、ボトルの中身を飲み干すと
ゆっくりと立ち上がって覆い被さるように抱きついてきた。
カカシの身体がずしりと重い。
「に早く逢いたくてさ。鳥、飛ばしたの・・・」
カカシの息が首筋にかかる。
「ほんとにごめんね、遅くなって」
カカシは身体を離して私の顔を見つめると、静かに唇を重ねてきた。
ミネラルウォーターで冷やされたカカシの冷たい舌は唇を何度かなぞった後
迎える私の舌と絡まって、互いの間を行き来する。
頭を後ろから支えられ、私もカカシの頭を抱えれば、キスは更に深くなる。
濡れた唇を貪り、舌を吸いあい、幾たびも口内を侵しあって。
そのうち背中にあったカカシの手が前に廻り、胸を触って頂を探ってくるから、
口は塞がれたままなのに
息継ぎの呼吸とともに喉から声も漏れてきてしまう。
もっと・・・もっと・・・欲しい・・・けど・・・・・・
カカシがくれる、気が遠くなってしまいそうな官能から逃げるように、
抱えていた手をカカシの肩に下ろして。
何度も引き戻されながらに離れれば、ふたりの唾液は名残り惜しげに銀の糸を引いた。
「・・・お風呂、入って来る・・・」
やっとの思いでキスを切り上げた私に
「ベッドで待ってる」 とカカシは返す。
好きな男と熱いキスを交わせば、女だって、したくなる。
久しぶりなら尚のこと。
強く求められたらきっと、身体の汚れなどどうでも良くなってしまいそうなほど・・・
湯をかけて疼く場所を素手で洗えば、花弁のぬめりが指先を滑らせた。
普段はカカシが心配するくらい長くなる入浴も、早く腕の中に入りたくて半分以下に短縮された。
洗い髪が乾く間さえ、もどかしい。
―― に早く逢いたくて
私もカカシの帰りが待ち遠しかったよ。
愛される準備を整えて寝室に向かえば、ドアはわずかに開いていた。
そっと指で押して入れば、月光の降り注ぐベッドには横たわるカカシの姿。
でも、いつもと違う、うつ伏せの状態。
今夜は冷えてきているのに、上に何もかけないままで。
音も無く開けてもいつも必ず気が付いて、誘うように見つめて迎えてくれる瞳は
今日は近づいても閉じたまま。
規則正しい息使いが眠りに落ちていることを教えてくれた。
抱いて欲しかったのにな・・・
ベッドサイドの小さな明かりを灯して、窓をカーテンで隠して。
カカシの足の下の羽毛布団を少しずつ引いた。
引き抜けば小さく呻って寝返り、仰向けになった。眉間にシワを寄せたが、目覚めることはなく。
身体に布団をそっとかけて、私も中に入る。
投げ出した腕と上半身の隙間に割り入って、無理やり腕を枕にして寄り添ってみる。
冷えたカカシの身体に腕を回し、足を絡めて抱きついてみても、されるがままで。
胸に乗せた私の耳に鼓動が伝わってくるだけ。指先ひとつ動かす様子もない。
疲れているんだよね・・・
でも、いつもなら、どんなに疲れて帰ってきてもカカシは私を抱いてくれた。
耳に愛を囁いたあと、口唇で濡らしてくれて、指でほぐして、熱いかたまりで溶かしてくれた。
寝ている振りをしているのかな・・・
私が猥らに求めるのを待っているのかも・・・
―― 何をして欲しいのか、ちゃんと言ってごらん
そう言われたことがあった。
―― したいなら、オレをその気にさせて頂戴よ
無言でそう私に言ってるの?
その気にさせるなんて・・・できるかな・・・・・・
いきなり触るのは大胆すぎて、淫らな女みたいで恥ずかしいから、
最初はカカシの太腿に手を置いた。
脱力していてもわかる筋肉を下から上にゆっくりと撫であげて
静かに中心に触れていった。
いつも 「触って」 と言われて触れれば、すでに固く起きている。
何度目かで最大でなくても、姿勢は正しているのに・・・
アンダー越しでは様子が理解できなくて、直接触ってみたくなる。
手を差し入れられることは多くても、差し入れることに慣れてはいない。
でも、直に触れるには忍び込む必要がある。
下着のふちから潜り込んで、腹を撫でるように手を滑らせて、
肌と布の間を進めばそこに、カカシがいた。けれど・・・
初めてだった。こんなカカシに触れるのは。
同じものとは思えない大きさと柔らかさ。
私が知っているカカシは、猛々しく怒張していて、熱く力強いのに、
今は手のひらに収まってしまいそうな大きさで、身体で一番柔らかいものになっている。
寝ているから、起きてないんだ・・・・・・
目覚めさせたら、抱いてくれる?
・・・あのね・・・我慢できないくらい、して欲しいんだ・・・
愛してあげるよ・・・・・・
中に潜って、脱がせるのは大変だから出来る限りで布を下ろして、指で押さえて。
カカシを手のひらに抱き上げて、先端にキスをする。
優しく握って柔らかな皮膚をゆっくり動かして。
舌で撫でて、口に含んで、その後ろのふぐりも優しく手のひらで包む。
僅かに膨らみ、起きた感じがした。
それが嬉しくて、もっと起きて欲しくて、行為を続ける。
始めの恥ずかしい気持ちなんて、いつのまにか消えていた。
でも・・・
カカシはそれ以上膨らむことはなく・・・
勢いは気配を見せただけで消えていってしまった。
もう一度といくらさすっても、口に含んでも、舐めてあげても、キスをしても
くたりと手の中に倒れたままで、起き上がってこない。
いつもは片手では包みきれず、含んでも半分も収められないそれが・・・
私が下手なのかな・・・
どうにも変化の起きないカカシに悲しくなってくる。
もっと舌を使って、もっと唇を滑らかにして、もう一度・・・
手の上のカカシを再び咥えようとしたそのとき、私の頭をカカシが抑えた。
「もう・・・止めてくれる?」
カカシの言葉に泣きそうになった。
「もう一回させて、もっと上手にするから・・・」
「何度しても同じだ・・・辛いんだ・・・頼むから・・・」
カカシを手から下ろして、押さえていた指を緩ませて、布を元に戻して。
布団から顔を出すなんて出来なくて、カカシの横に小さくなった。
じっとしていれば、カカシの掠れた声が聞こえてくる。
「本当なら、今頃は病院のベッドの上・・・・・・チャクラ・・・ほとんど切れちゃってさ・・・
でも、帰ってきたくて・・・あんなところじゃなくて・・・の側で休みたかったから・・・
だから、テンゾウに無理言って・・・鳥、飛ばした・・・・・・戻ると約束すれば、頑張れるから・・・・・・」
病室を抜け出してきたのかもしれない。
「大丈夫なの?」
問いかけた私にカカシの返事は無かった。
髪に触れていた指も動きが止まっていた。
眠りに落ちたというよりも、意識が遠のいたみたい・・・
一体どんな戦いをしてきたのだろう。
眼を限界まで使ったことは間違いない。
怪我は無いようだけど、掌仙術で塞いであるのかもしれない。
ひとりの夜ならば、間違いなく自分の指で慰めるだろう。
そうせずにはいられないほどに、もう身体は熱を帯びていた。
カカシへの愛撫は自分自身も欲情させたのか、蜜を出しているのが自分でもわかった。
まだ閉じているそこから溢れて、とうに下着は濡れているから・・・
でも、いくら潤んでも、疼いていても、私の心はもう欲してはいない。
倒れたのだと知れば、欲などすぐに冷めてしまう。
チャクラが切れた時は寝て回復を待つしかないと聞いている。
静かに寝かせておくしかないと・・・
回復に必要な時間は確か一週間。
明日明後日と私は休日。その後2日、休暇を取るよ。
今日、仕事の目処を付けてきて良かった・・・
5日目になれば、ひとりで寝てても大丈夫だよね?
布団の中の温かい空気はカカシの匂いがする。
抱いてほしかったけど・・・・・・我慢できるよ・・・
無事に帰ってきてくれて・・・・・・
本当に良かった・・・・・・
→ NEXT
BGM 月光ソナタ 第1楽章:ベートーヴェン