「星降る夜の願い事」 後編
泣いたまま寝てしまったらしい。
は鏡で自分の顔を見る。
眼が赤く、瞼が腫れぼったい。
『カカシに気付かれるだろうか・・・。』
そんな思案を胸に自室を出て、顔を洗い、朝食の準備を始めた。
カカシを起こそうか部屋の前で迷っていた。
昨日、長期任務から戻ったばかりで、疲れて寝ているのだとしたら起こさない方が良いだろう。
任務明けで今日は休みのはずだ。
でも、久しぶりに暖かい朝食を食べさせてあげたいとも思った。
ノックしようと手を挙げた途端ドアが開いて、まだ半分眠そうなカカシが伸びをしながら現れる。
「ん〜・・・おはよう、。」
「お、おはよう・・・。」
「眠れなかったの?眼が赤いよ。」
カカシはの顔を覗き込みながら、目元に指を滑らせる。
「あ、これは違うの。眼に・・・そう、眼にゴミが入って、それでこすっちゃって・・・。」
「見せて。」
カカシは、その大きな手での頬を包む様にして、顔を上に向かせた。
カカシの色違いの瞳が、の眼を見つめながら近づいて来る。
ちゅっ。
それは一瞬だった。
カカシの唇がのそれに音を立てて触れる。
次の瞬間には、目の前ににこりと笑うカカシの顔があった。
「え・・・!?」
「そんなに驚いた?奥さんにおはようのキス、だよ?」
いたずらっぽく笑うカカシには言葉が出ない。
夕べ、あんなに呆気なく、突き放す様に離れたカカシとはあまりにも違う彼がそこに居て、
そのギャップに思考が着いて行かない。
何も言わないの頭にぽん、と手をやり、
「これくらいは許してよ、ね?」と言ってカカシは洗面所へ向かった。
は溢れる気持ちを抑えられなかった。
彼が好き。
大好き。
『奥さん』と言ってくれた。たとえ仮初めでも。
『おはようのキス』をしてくれた。たとえ何の感情も入って無くても。
震える唇を指で押さえ、ぎゅっと音が聞こえそうな胸をもう片方の腕で抱いた。
何事も無かったかのように朝食を済ませた。
出勤の準備をするに、
「今日、仕事終わってから予定ある?」とカカシが訊いた。
「特に何も・・・。」
「じゃあ、終わる頃病院に行くよ。多聞さんに無事帰還と、結婚の報告もしたいし。
帰りに買い物もしよう。冷蔵庫、空っぽだしね。」
「カカシが荷物持ってくれるなら、重たい物たくさん買っちゃおう。」
小さな舌をだして、子供のように笑うを、眼を細めてカカシが見つめた。
病院に着くと、同僚達に囲まれた。
「おめでとう!」
「指輪!見せて!」
「あ〜あ、ホントに結婚しちゃったんだ〜。」
いろんな感情のこもった言葉が、いっぺんに降ってくる。
婦長が近づいて来て、
「おめでとう、さん。昨夜シズネさんが知らせてくれたのよ。
これは新しいネームプレート。お幸せにね。」
そう言って手渡されたのは『はたけ 』と書かれた、真新しいものだった。
はそれを胸に抱き、潤んだ瞳を輝かせ、
「ありがとうございます。」と言って頭を下げた。
夕方、仕事を終え、私服に着替えたは、カカシと一緒に多聞の病室に向かった。
「多聞さん、無事帰りました。」
笑顔でベッド脇の椅子に並んで座る。
「おかえり、カカシ。怪我はないか?」
「ええ、もちろん。チャクラ切れも無しです。」
ああ、それから・・・とカカシは続ける。
「昨日、籍を入れました。晴れて、夫婦になりましたよ。」と言って、左手の指輪を見せる。
も、それにならって左手を差し出す。
多聞は大きく眼を見開いて、それから嬉しそうにその眼を細めると、
「そうか。良かった。私も本当に嬉しいよ。おめでとう。カカシ、これからはさんを護る為に戦え。
さん、こいつは忍としては強い。でも、人としてはまだまだ子供だ。
どうか、貴女の強い優しさで支えてやって欲しい。よろしく頼みます。」
そう言って、の手をしっかりと握った。
「多聞さん。俺の奥さんの手を強く握り過ぎ。俺だってそんなにしっかり握った事ないのに・・・。」
一瞬の沈黙の後、三人は声を上げて笑った。
買い物をしながら、帰り道を歩く。
八百屋のおばさんにお祝いを言われ、魚屋のおじさんにはひやかされ。
雑貨屋のお兄さんに泣かれた時には、カカシはちょっとだけ不機嫌になった。
「な〜に、。あの雑貨屋と仲良かったの?」
「ううん。全然。ただの店員と客よ。・・・もしかしてヤキモチ?」本当に結婚してるわけでもないのに?
後半の部分は心の中で呟いた。
「そ。俺って独占欲強いの。奥さんには誰も近づけさせやしな〜いよ。」
にや、と笑って言う。
顔を真っ赤にするに、
「ってす〜ぐ顔が赤くなるんだね〜。可愛い。タコみたい。」
「・・・タ・・タコ?何それ〜!!」
は頬を膨らませてカカシを睨む。
「怒ると更に顔が赤くなるよ。ますますタコみたい。」
あははと笑ってカカシが逃げる。
「もう!カカシっ!!」追う。
カカシはすぐに捕まり、ごめんごめんと言ってその手を取る。
やっぱり赤くなったの顔を、横目で優しく見つめながら、
かさかさと枯れ葉が舞う道を、手を繋いだまま家まで帰った。
晩秋の薄闇が、ふたりの背に降り注ぐ。
束の間の静けさの中、星の煌めく音だけが流れ始める。
大きな月が無言でその響きを聴いていた。
本格的にふたりの生活が始まった。
それは、思い描いていたものより、遥かに楽しいものだった。
カカシは任務で忙しく、留守にする事も多かったが、休みの日は必ずを病院まで迎えに来た。
ふたり一緒の休日は、良く何処かへ出かけた。
恋人達のデートの様に、カカシはいつもどこでも優しかった。
どこにも出かけず、家で過ごす事も楽しかった。
穏やかに過ぎゆく二人の時間はゆっくりで、
そこに在る事がずっと前から決まっていたかのように静かに流れる。
ただ、カカシはの体に、必要以上触れる事はしなかった。
小鳥がする様なおはようのキス。
買い物帰りに繋ぐ指。
時々包み込むように回される腕。
それはどれも甘美で、を陶酔させる。
だが同時に、それらはカカシの優しさから来るものであって、
決してを欲しているからではないと知らされる。
もっと深く口付けて欲しい。
もっと指を絡めるように握って欲しい。
もっと強く、きつく抱きしめて欲しい。
毎晩甘い夢を見る。
夢の中のカカシは、優しいだけではなく、怒り、泣き、声を上げて笑い、
を心から愛していると囁く。
しかし目覚めると現実が迫り来る。
それは「真実」という恐怖。
目覚めるのが怖くて眠れぬ夜がを襲う。
今夜も眠れずに、ベッドの中で何度も寝返りを打ち、明るくなり始めた空をカーテン越しに恨めしげに睨む。
リビングで音がする。
任務に出ていたカカシが帰って来たのか。
恐る恐るリビングを覗くと、腕と足に血を滲ませたカカシが蹲っていた。
「カカシ!」
慌てて駆け寄る。
起こしちゃった?と小さな声でカカシが呟く。
カカシをその場に寝かせ、患部の衣類をはさみで切る。
幸い傷はそれほど深くない。
疲労しているせいで、力が入らないだけらしい。
「大丈夫よ。すぐに手当するから。」
そう言って救急箱を取り、手際よく処置を施す。
「肩に捕まって。ベッドに連れて行ってあげる。」
寝室で、パジャマに着替えるのを手伝い、カカシをベッドに寝かせる。
「じゃ、おやすみ。」と言って離れようとしたの手をカカシが掴み、
「ありがとう。」と弱々しく微笑む。
「高いわよ?治療費。」そう言って小さく笑い、カカシの額にキスをする。
からカカシへの初めてのキス。
早鐘を打つ鼓動を悟られないようにと、慌てて部屋を出て行くの背中を、
最後まで見送る事無くカカシは深い眠りに落ちた。
そのまま仕事に出たは、ヒカリに捕まる。
「どうしたの?眼が真っ赤よ。」
「うん・・・。寝てないの。今朝早くカカシが怪我をして帰ってきて・・・。」
「そう。大丈夫なの?」
「怪我はたいしたことなかったんだけど、かなり疲れていたみたい。でも大丈夫よ。」
不安な表情を見せるに、ヒカリは気を取り直して言う。
「あ、ねえ、明日休みだよね?カカシさんは?」
「さあ?解らない。今朝は話が出来なかったから・・・。どうして?」
「あのね、明日ゲンマと一緒に遊びに行こうと思って。お祝いもしたいし、新居も見たいし。どうかな?」
「本当?嬉しい。是非来て!誰かが来るのって初めてなの。」
嬉しい気持ちを抑えきれず、急いで家へ帰る。
早くカカシにも伝えたい。
「ただいま〜。」
・・・返事がない。
カカシはまた別の任務に向かったのか留守だった。
がっかりしてソファにどさりと倒れ込む。
怪我、大丈夫なのかな。
今日は軽い任務だといいな。
何時頃帰るんだろう。
明日、カカシも休みだったら、4人で楽しいだろうなぁ。
考えるのはカカシの事ばかり。
睡魔が襲ってきた。
眠れない夜が続いていて、今日は一睡もせずに仕事に就いた。
瞼が重い。
また夢を見ていた。
カカシが優しく何度もの名を呼ぶ。
「愛しているよ。」そう言って唇を寄せる。
そっと触れた唇は何度も離れてはまた触れ合う。
だんだん触れている時間が長くなり、離れない。
静かに舌が割り込んでくる。
の口腔を探るようにそれが蠢く。
どんどん深くなる口付けに、も夢中で応える。
項を撫でていた手が、胸元に降りて来た。
首筋にしていた様に、そっと服の上から胸を撫でる。
その指に少し力が入り、柔らかな乳房に沈む。
そこで眼が覚めた。
見開いた眼に映るのは、焦点が合わせられないほど近くにあるカカシの顔。
びっくりしてその肩を押す。
「そんな所で無防備に寝てたら、どっかの覆面忍者に襲われるよ。」
忘れ物を取りに来ただけだから・・・。そう言ってにこりと笑い、何事も無かったかの様にまた出て行く。
行ってきます、の言葉を残して。
どこまでが夢で、どこからが現実?
それよりも、どうしてあんなキスを?
涙が静かに落ちる。
目覚める事だけじゃなく、もう眠る事さえも怖かった。
眠れぬまま朝を迎える。
カカシは帰って来なかった。
雨が降っている。
体がだるい。
食欲もない。
でも、せっかく今日はヒカリとゲンマが来てくれる日だ。
ふう、と大きく息を吐き、冷たい水で顔を洗って気を入れる。
メイクで青白い顔と隈を隠し、鏡に向かって笑顔を作る。
「大丈夫。」自分に笑って見せた。
午後早く、ふたりは現れた。
「お邪魔しま〜す。」
「いらっしゃい!待ってたのよ。適当に座って、お茶淹れるから。コーヒーでいい?」
「ああ。ありがとう、ちゃん。」
「なんかゲンマさんに、ちゃんなんて呼ばれるとくすぐったい。、でいいよ。」
「そうか?あー・・・でもカカシさんに殺されそうだな。」
「どうして?そんなことないわよ。」
くすくすと笑って、コーヒーメーカーをセットする。
ふたりがケーキを買って来てくれた。
『結婚おめでとう』のプレートが、イチゴの間にちょこんと乗っている。
「カカシさんが居ないのが残念ね。今日は遅いの?」
「それが解らないの。昨日帰って来たら、もう出かけてて・・・。すれ違いで訊けなかったの。
ゲンマさん聞いてない?」
「いや、俺は何も・・・。ああ、そういやぁ一昨日って言うか昨日の早朝、カカシさん怪我して帰って来たろ?
俺も一緒の任務だったんだけど、病院に行けっつってんのに、が待ってるからって聞きゃしねぇ。
ったく、人が心配してやってんのに・・・。」と、眉間にしわを寄せる。
「愛されてるわね〜。羨ましい。」
「な、何言ってんの?ばか。」
「照れちゃって。か〜わいい。」ヒカリがからかう。
「それよりあなたたちはまだ結婚しないの?あんまりもったいぶってるとゲンマさんに浮気されちゃうわよ。」
も反撃に出る。
「って俺かよ?俺が浮気なんかするわけねぇだろ。」
「そうよ〜。ゲンマは私一筋なんだから。」
「はいはい。ゴチソウサマ。」
降参と言わんばかりには両手を挙げて笑う。
気の置けない友と過ごす時間は、の心を癒し、体調の悪いのも忘れて、ただただ楽しませてくれた。
ふたりが雨の中帰って行くのを、ベランダから見送った。
ひとつの傘にふたり寄り添いながら歩いている。
冬の冷たい雨音さえ、ふたりの回りでは甘い音楽を奏でている様に思えた。
『病院に行けっつってんのに、が待ってるからって聞きゃしねぇ。』
キッチンで洗い物をしながら、はゲンマの言葉を思い出していた。
ふふ。思わず顔が笑ってしまう。
嬉しい。
怪我をしても、私の所に帰って来てくれた。
カカシも私に会いたいと思ってくれたのかな。
そんな事を考えながら今日の出来事に思いを巡らせていると、
「ご機嫌だね。何かいいことあった?」
急に背後から声をかけられ、心臓がひとつ大きく脈打った。
「カカシ・・・お、おかえりなさい。びっくりした〜。お水使ってたから、音が全然聞こえなくて・・・。」
「ただいま。誰か来たみたいだね。」
キッチンの入り口に左肩を預け、ポケットに手を入れたまま、不機嫌そうにカカシが言う。
「あ、うん。ヒカリがね、お祝いのケーキ持って遊びに来てくれて・・・。」
「ゲンマ君も、でしょ?どうして隠すの?」
カカシの視線が強くを刺す。
「別に隠してなんか・・・。」
「そう?」
こんなに不機嫌さを露わにしたカカシは初めてだった。
任務で何かあったのだろうか?
それとも、自分に何か原因があるのだろうか?
留守の間に勝手に他人を招いたのが悪かったのか。
様々な考えが頭の中をぐるぐると回るが、どうしても解らない。
何とか、この重苦しい空気から逃れようと、話を逸らした。
「・・そ、そういえば、怪我はどう?痛くない?」
「ああ。」
「ゲンマさんが病院に行けって言うの断ったんだって?心配してたわよ。」
ぴし。
空気が変わったのを感じた。
まずい・・・そう思った時はもう遅かった。
「何で俺がゲンマの言う事きかなきゃならないわけ?俺の手当するのそんなに嫌だった?
それともゲンマが好きなの?じゃあ、盗っちゃえば?ヒカリちゃんから。
親友なんて言ったってうわべだけだよ。何なら彼女の面倒は俺が見てあげてもいいよ。
どうせ俺達は数ヶ月後に別れるんだから、ちょうどいい。」
カカシの言葉が、ひとつひとつ針となって、の胸に深く抉る様に突き刺さる。
涙も出なかった。
言葉も出なかった。
感情というものが心から零れ堕ちたように、何も感じる事が出来なかった。
ただ、そこに居る事だけは体が拒否した。
ふらふらとカカシの横を通り、玄関に向かう。
カカシは何も言わない。
重い足が、床を掴み損ないそうになるのを必死で堪え、手で壁を支えにしながら歩く。
カカシは背中で、もうじき聞こえるであろう、玄関の重いドアが閉まる音を覚悟した。
しかし、聞こえてきたのは想像していた音とは違う、もっと激しいものだった。
何かが床に叩き付けられたような、嫌な音。
「!?」
玄関に向かう短い廊下にが倒れている。
顔色が無い。
唇だけが紫に浮き出ている。
手は冷たく、体温も無い様に感じた。
「!・・・!・・・!!」
膝に抱き上げて体を揺すり、何度も何度もその名を呼んだ。
からは何の反応も返って来ない。
雨が上がり、薄い雲の向こうにその姿をじわりと滲ませた月に追われる様に、
カカシはを抱え、木の葉病院へと翔けた。
「カカシ、お前いったいこの子に何をしたんだい?」
五代目火影、綱手が低い声で責める様にカカシに問う。
「体もそうとう参ってるが、心の方がぼろぼろだよ。
まるで、お前がイタチの月読を食らった時みたいにね・・・。」
唖然とした。
それほどまでに酷い仕打ちを自分がしたのかと、ショックで立っているのが不思議なくらいだった。
「さっき・・・酷い事を言ってしまって・・・。」
やっとの事で声を絞り出す。
「昨日、今日の問題じゃない。おそらく、ここ数ヶ月は満足に寝ていないはずだ。
精神的にも酷く緊張を強いられている状態が続いているみたいだね。」
もしかして・・・と綱手が続ける。
「お前達の結婚が原因なんじゃないのか?・・・・・何を隠している?カカシ。」
鋭い視線で、カカシを射貫く。
この結婚自体が原因・・・?
カカシは、手甲を嵌めた手をきつく握りしめ、言葉を失った。
はあ、と深く溜息を吐き、「お前は面会禁止だ。帰れ。」
綱手に睨まれ、肩を落としたままカカシは病室のドアへ向かう。
ドアを閉める直前、の顔を見た。
やや落とされた照明の光に照らされ、綺麗に陰影を映すその顔は、自分を拒否するかの様に美しかった。
あれから3日。
は目を覚まさない。
目覚める事を、全身全霊で拒んでいると綱手は言った。
病室に入る事を許されないカカシは、廊下でただが戻って来るのを待つしかなかった。
消毒薬の匂いが鼻を突く。
医療忍者や看護士が忙しなく廊下を行き来する中、何も為す術がないまま、ただカカシはそこに居た。
何が、そんなにもを追い詰めてしまったのか。
この結婚があくまでも契約だと言う事は、彼女も最初から知っていたし、納得済みだった。
借金も全額返済したし、仕事も軽くなって、体の負担は軽減したはずだ。
寝室も別にした。
本当の夫でもない男に触れられるのは嫌だろうと、彼女が不快に思うほど触れた覚えはない。
回りに嘘をついている事が、彼女の負担になる事が少なからずあっただろう。
だから、彼女には優しく接した。
出かける時も、家で過ごす時も、労るように接していたはずだった。
あの時を除いて。
あの時・・・どうしようもなく苛立った。
気付いたら酷い言葉を吐いていた。
自分が彼女を傷付けたのは、その時以外思い当たらない。
しかし、綱手は数ヶ月の悩みが積み重なった結果だと言った。
ならば、やはりこの結婚そのものが彼女を悩ませていたことになる。
それほどまでに嫌だったのか。
そう言えば、好きな男がいると言っていた。
その男が忘れられないのか。
それなのに、契約の為に好きでもない男と暮らさなければならないなんて、
彼女にとっては不幸以外の何ものでもない。
酷く胸が痛む。
もう、を解放してやろう・・・。
そうカカシは決心した。
カカシは多聞の部屋を訪ねた。
暖房の効いた、暖かな空気がふたりを包む。
「こんにちは。具合はどうですか?」
「ああ、カカシか。相変わらずだよ。お前はどうだ。しっかりやっているか?」
カカシは気まずそうに目を逸らす。
「実は、お話があって来ました。」
カカシのいつもと違う雰囲気に、多聞は笑顔を消す。
「さんの事か?」
「そうです。・・実は、この結婚は・・・」
「私を安心させる為・・・だな?」
カカシは、自分の言葉を遮って話す多聞を、驚いて見つめた。
「解っていたよ。・・・私だって、かつてはサクモの右腕と言われた忍だ。それくらい検討はつく。
しかし、いつか本当の夫婦になれると、それくらい惹かれ合っていると思っていたが、違うのか?」
穏やかだが、凜とした声で多聞はカカシに問う。
「俺も、そう思っていました。・・・でも、もう・・・。」視線を下に向け、首を横に振る。
「カカシ、お前の気持ちはどうなんだ。彼女を愛しているんだろう?」
「俺の・・・気持ち・・・。」
そう言ったきり、黙りこむカカシ。
「さんの気持ちを訊いたのか?彼女は正直な人だ。お前にだって嘘は言わないはずだよ。」
彼女の気持ち・・・。
好きな男がいると言っていた。それが全てだ。
嘘が言えない彼女は、だから今、俺と結婚してしまった事で苦しんでいるのだ。
「彼女の気持ちは、俺には在りません。・・・もう彼女を解放してやりたいんです。」
「それでいいのか?」
カカシは俯いたまま何も答えない。
ふう、と多聞は息を吐き「そうか・・・。やはり、お前はまだまだ子供だ。」
そう言って、苦く笑った。
多聞の病室を出て、の部屋へ向かう。
足が思うように動かない。
重いと言うより、感覚がない感じに近い。
『面会謝絶』と書かれたドアを、少しずつ開ける。
モニターの、無感情な音だけが静かに響いている。
は白く綺麗な顔で寝ていた。
胸が規則的に上下する。
「。」
額にかかる前髪をそっと払いながら呼びかけた。
反応がない。
こんな風にしてしまった自分の責任を痛感する。
「ごめん、・・・ごめんな。」
の頬に手を滑らせ、「もう苦しまないで。君を・・・解放するよ。・・・・・さよなら。」
名残惜しむかの様に頬を撫でて、カカシは病室を出た。
病院を後にして、どこに行く宛も無く、ただ歩く。
いつもより背を丸くして。
北風が追い越してゆく。
気温より寒く感じるのは、その風のせいか。
それとも、手放してしまった心のせいか。
「カカシせんせーい!!!」
聞き慣れた声が呼んだ。
振り向くと、名前と同じ色の髪の毛を乱して、サクラが翔て来る。
「お。久しぶり。どうした?」
少し大人っぽくなった教え子に弱く微笑む。
「先生、綱手様が呼んでる!さんが・・・!すぐ病院に・・・。」
サクラがそこまで話した時、カカシの姿はもう無かった。
「!!!!」
病室に入ろうとするカカシを、数人の医療忍者が止める。
「今治療中です!」
「いったいどうなってるんだ!」
「解りません。急に意識レベルが低下して・・・。危険な状態です。今、綱手様が治療に当たっています。」
「・・・!」
手を握りしめ、その場に立ちつくす。
しばらくして、病室からヒカリが出て来た。
「ヒカリちゃん!は・・・?」
「大丈夫。・・・カカシさん、少し時間いいですか?」
カカシは、ヒカリと共に屋上に佇む。
相変わらず北風が強く、干されたシーツがばさばさ、と音を立ててはためいていた。
「カカシさん。どうしてこんな事になったんですか。この前まであんなに幸せそうに笑ってたのに・・・。」
「ヒカリちゃん・・・。ごめんね。この結婚は最初から間違っていたんだ。」
がどこまでヒカリに話していたかは解らないが、
彼女の性格なら全ては話していないだろうと判断したカカシは、契約で結婚した事は伏せておく事にした。
「綱手様が言ったんだ。彼女がこうなったのは結婚が原因だって。思い当たるふしがある。
だから、彼女をもう解放しようと思って・・・さっきお別れを言ったばかりなんだよ。」
「お別れ・・・?」ヒカリが驚いてカカシを見上げる。
「カカシさんがに直接言ったんですか?」
「ああ、伝わったかどうかは解らないけどね。彼女はもう・・自由だよ。」
屋上の柵に肘を付け、上体を預けて遠くを見つめたままカカシが言った。
「違う!カカシさん!!」ヒカリがカカシの腕を掴んで
「自由だなんて、違います。この結婚に何か別の事情があるって、何となく気付いていました。
だけど、は心からカカシさんを愛しているって言ったんです。
それが真実だって解ったから、彼女の心に嘘は無いって解ったから、この結婚も祝福したんです。
それなのに何故別れるだなんて・・・。酷い・・・。」
ヒカリは眼に涙を溜めてカカシを責める。
「だけど、結婚が原因でこうなったのなら、それを解消すれば元に戻るはずだ。だから俺は・・・。」
「カカシさん、全然解ってない。・・・カカシさんは・・・をどう思ってるの?」
「俺は・・・。」
ヒカリが涙を溜めたまま視線を外さず見ている。
「俺は、を愛しているよ。」
もう、認めるしか無かった。
「じゃあ、カカシさん、それをに伝えて。
私たち看護士はチャクラを練ったり使ったり出来ないけれど、常に患者さんのそばで接しているから解る。
看護士の勘だけど、は心が目覚めるのを拒否しているだけで、本当は起きていると思うの。
だからカカシさんの声も聞こえてる。カカシさんがお別れを言ったから、容態が急変した。
でも、さっきカカシさんが病室の外での名を呼んでから、また安定したの。
彼女が目覚めるのを拒むのは、自分が愛されていないと思っているからよ。
だから、カカシさんが本心を伝えてくれれば、きっと目覚めるわ。」
が俺を・・・?
本当に?
信じられない。
でも・・・・・。
彼女が目覚めるのなら、俺の本当の気持ちを伝えよう。
少しその力を強めた北風が、早く行けとカカシの背を押している様だった。
カカシはヒカリに促されて、の眠る病室へ向かった。
ドアをノックすると、医療忍者が出て来た。
「に会わせてくれ。」
カカシの言葉に室内から綱手の声がした。
「入れ。」
の眠るベッドに、静かに歩み寄る。
数時間前より多くなった管。
相変わらす白いままの頬。
太陽の光が、室内を淡い橙色に染めていた。
「もう、お前にしか治せないのかもしれない。・・・何かあったら呼べ。」
綱手は、そう言って部屋を出る。
医療忍者も看護士も、綱手の後に続いた。
「・・・。」
ふたりきりになった部屋に、先程とは違った空気をまとって響くカカシの声。
の手を両手で握り、
「最初から話すよ。俺の本当の気持ちを・・・。」
カカシが話し出す。
最初に会ったのは、多聞さんのお見舞いに行った時だった。
色白の綺麗な人だと思った。
笑顔が眩しかった。
話してみると、朗らかで、優しくて、可愛くて。
気付いたら好きになってた。
だけど、1年前から急に変わったよね。
表面上は同じように見えたけれど、笑顔がぎこちなく、背中が淋しそうで、日に日に疲れて行くのが解った。
両親が亡くなって、多額の借金を背負っていると聞いたのは、半年も経ってからだ。
助けたかった。何としても。
でも、ただの顔見知り程度の他人から、金を受け取るとは思えない。
結婚すれば・・・。そう思った。
そうすれば、助けられるし、いつも一緒に居られる。多聞さんも安心するだろう。
打算だらけだ。
俺の気持ちばかり先走りさせて、君の気持ちは無視した。
そのくせ、自分の本心は隠したまま。
がOKしてくれた時、嬉しかった。
この結婚に愛はいらないと言って、『契約』と言う名の下に君を手に入れた。
だけど、最初は本当の結婚じゃなくても、いつか君が振り向いてくれる、
愛してくれるかもしれないと思った。
でも、やっぱり自信なんか持てなくて、自分を戒める様に冷たい態度でごまかした。
初めてキスをした時を覚えてる?
俺と一緒にいるのが嫌じゃないって言ってくれて、勝手に体が動いたんだ。
少なからず好意を持ってくれていると思ってた。
でも、君は泣いて・・・。
涙はもう見たくなかったから、本当の気持ちは隠さなければと思った。
長期任務から帰って、すぐに火影様の所に行った。
一日も早く、君を手に入れたくて。
指輪は随分前に用意してた。
渡す時はドキドキしたよ。
拒否されたらどうしようって思ってた。
顔なんてとても見せられない。だからの背中越しに指輪の交換をしたんだ。
君が喜んでくれて、ほっとした。
本当はめちゃくちゃに抱きしめて、キスして、全てを俺のものにしたかった。
自分の気持ちを抑えるのに必死だったよ。
だから、指輪を渡した後はそっけない態度を取るしかなかった。
君がベッドで泣いているのが解った。ごめん。
おはようのキスを許してくれた時も嬉しかったよ。
それだけでも充分幸せだった。
でも、おやすみのキスは出来なかった。
そんなことしたら、我慢できないのは俺だから。
任務で居ない日も多かったけど、それ以外はいつも一緒に過ごしたかった。
デートもした事がなかったから、たくさん出かけたね。
出かけなくても、ふたりで居られれば俺は良かったけど。
怪我をした時も、早く帰って顔が見たかった。
怪我なんか、の顔を見れば治ると思ったし。
丁寧に手当してくれて、ありがとう。暖かかったよ。
次の日、報告書を出して帰って来たら、ソファで寝てるを見てびっくりした。
初めて寝顔を見たからね。
可愛くて、我慢出来なくて、気付いたらキスしてた。
触れたら止まらなくなって、夢中で君を求めてた。
眼を覚ました君に、どんな顔をしていいか解らず、任務なんてないのに適当な言い訳をして部屋を出た。
朝までアスマを付き合わせたよ。
その後、家に帰って来た時、ヒカリちゃんとゲンマが来たってすぐ解った。
あんなに機嫌のいい君を見るのは初めてで、そこに居たのはゲンマだったってそれだけで
俺は嫉妬したんだ。
どうしようもなくイライラして、言葉なんて選べなかった。
君の事が大好きなのに、あんな酷い事を言うなんて、最低だな俺は。
そのせいでこんな風になっちゃって、もうを解放するしかないと思った。
多聞さんは俺の嘘に気付いてた。
バカだ、俺。
回りに嘘ついて、自分に嘘ついて、君にも嘘を。
ヒカリちゃんが言ったんだ。
が俺を愛してるって。
ねえ、本当?
俺は、君を、を、愛しているよ。
「・・・目を覚まして、君の気持ちを聴かせて欲しい。本当の気持ちを・・・。」
カカシは握っているの手を親指で撫で、もう片方の手で頬に触れる。
つ、との目尻から雫がひとつ流れる。
もうひとつ。
更に、もうひとつ。
「・・・?」
カカシが呼ぶ。
静かに、ゆっくりと開けられる瞼。
の茶色い瞳が少しずつ見えてくる。
外は暗くなり始め、室内の蛍光灯の光がやけに明るく感じる。
は眩しそうに、その綺麗な眉を歪めて、それでもゆっくりと眼を開けた。
カカシはの顔を覗き込む様にして、その瞳に自分を映す。
「・・・大丈夫?」
少し声が震えた。
の眼の前に酷く心配そうな表情をしたカカシが居る。
「カカシ・・・。これは・・・夢?・・・それとも現実?」
点滴に繋がれた手をカカシに伸ばす。
その手を取り、手の平にキスをして、
「現実だよ。・・・おかえり、。」
の涙を指で拭い、覆い被さるようにカカシがを抱きしめた。
ベストから流れるカカシの匂いが、鼻腔をくすぐる。
視界に入るのは、カカシの柔らかな銀の髪。
モニターの音に紛れて聞こえるのは「」と喉の奥で響いているカカシの声。
優しく包み込む腕は、いつもより少しだけ強く回されている。
背中を確かめるように撫でるカカシの手は、僅かに震えていて。
全ての感覚でカカシを感じる。
ゆっくりと体を離すと、
「綱手様に知らせて来る。」と言って、カカシが椅子から立ち上がる。
待って、とはカカシの手を弱々しく掴んだ。
「今、話していたのは・・・カカシ?」
「ああ、そうだよ。」
大きく息を吐きながらカカシが答えた。
「本当に?カカシの本当の気持ち・・・?」
ぽろぽろと涙を零しながらが訊く。
「ああ。」
カカシはベッドの端に座り、力の入らないの体をそっと抱き起こして、その長い指で涙を拭う。
「嬉しい。・・・カカシ・・私もカカシを・・・・。」
「俺を?」
「・・・ずっと・・」
「ずっと?」
「・・・好きだった・・。」
その言葉を飲み込む様に、カカシが唇を塞ぎ、深く口付ける。
カカシは、甘いの舌を探り、絡め、味わう。
は体をカカシに預け、優しいキスに陶酔した。
「早く元気になってよ。一緒に俺たちの家に帰ろう。」
カカシはそう言って、を抱きしめた。
数日後、が退院する日。
カカシが迎えに来たのは、すっかり日が暮れてからだった。
「待った?任務が思ったより長引いちゃって・・。」
「お疲れ様。大丈夫よ。」
そう答えたの顔は数日前とは違い、頬はうっすらと色づき、眼はいきいきと力強くカカシを映す。
「多聞さんの所へ寄って行きたいんだけどいい?」
「あ、私もそう思ってた。」
「心配かけちゃったからな・・・。」
ノックして、多聞の部屋へ入る。
多聞のまとう優しい雰囲気が漂って来る。
「さん・・・もういいのかい?」
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。多聞さんはいかがですか?」
はは、と短く笑い、
「出来の悪い息子が心配かけるからすっかり弱ってしまったよ。」
多聞がちら、とカカシを見ながら言う。
「参ったねぇ、どうも・・・。」と頬を指で掻き、
「だけど、は手放しませんでしたよ。」と、誇らしげなカカシ。
「当たり前だ。これでさんと別れたりしていたら、お前は勘当だったよ。」
多聞は、ベッド脇の椅子に座るふたりの手を取り、それを重ね合わせて、
「幸せになりなさい。これからはふたりで。」
いつになく強く言った。
「はい。ありがとうございます。」
「幸せになります。」
ふたりは、多聞に誓った。
「大丈夫?疲れない?」
病院からの帰り道、カカシがに訊く。
本当は、瞬身で抱いて帰りたかったが、が歩いて帰りたいと言ったのだ。
「平気。ずっと寝てばかりだったから、体がなまっちゃって・・・。体力付けて、早く職場復帰しないとね。」
そう笑顔で言うの手を取り、指を絡める様に繋いだ。
むき出しの枝に、木の葉がやっとのことで数枚繋がっている。
その間を乾いた冬の風が、遠慮がちに通り過ぎた。
冷たい空気がふたりの吐く息を白くする。
ふと、見上げた空には満天の星。
全てを抱き込む様にさんざめく。
「あ、流れ星。」
足を止め、が星空を指さして言った。
「あ〜・・・また願い事するの忘れちゃった。」
「願い事?」
「うん。流れ星が消える前に、願い事をすると叶うんだって。」
知らない?とカカシを見上げる。
「願い事なら・・・。」
「ん?」と、小首を傾げたに、低く穏やかな声でカカシが言う。
「が願うなら、どんな願いでも俺が叶えてやるよ。」
カカシはの顎に指を添えて上を向かせ、甘いキスをひとつ落とした。
降る様な星の中、ほのかな街灯がふたりの影を一つに映す。
は、涙を隠す様にカカシのベストに顔を埋め、その背中をぎゅっと抱いた。
カカシの広い背に回された細い腕。
思いがけない強さで抱かれたカカシは、自分も思い切りの薄い肩を抱きしめた。
今までカカシは、そっと腕を回す事しか出来なかった。
嫌がられるかも・・・、壊してしまうかもしれないと思って。
いつでも強く抱きしめたかった。
もう、その気持ちを抑えられなかった。
「本当ね。」カカシの胸の中でが呟く。
「何が?」
は胸に顔を埋めたまま少し篭もった声で
「ずっと、こうしてぎゅってして欲しかったの。願い事ひとつ叶えてもらっちゃった。」
参った。
もうダメだ。
こんな可愛い事を言われて、我慢出来るほど俺は聖人じゃない。
カカシは、の背中で印を組み、その体を抱いたまま瞬身で家へ帰った。
「・・・寝ちゃった?」
ベッドの上で、まだ少し汗ばむ華奢な体を抱き寄せる。
「ううん。起きてる。」
カカシの腕に頭を乗せ、傷だらけの厚い胸に指を這わせる。
その手にカカシの心臓の鼓動が伝わる。
「ねぇ、カカシ。私に結婚しようって言った時、ドキドキした?」
「どうしたの?急に。」
「私は・・・心臓が止まるかと思ったわ。」
「俺は・・・」
その時を思い出す様に眼を閉じる。
「その日だけは、俺がどんなに愚かな事をしても許される気がしたんだ。」
眼を開け、天井を見つめたまま
「あの日は、俺の誕生日だったんだ。・・だから・・・・・。ほんと、ガキみたいだな。」と嘲笑を含んだ声で。
誕生日・・・?
あの日がカカシの?
がその身を少し起こして、カカシにそっとキスをする。
「?」
そのままカカシの頭を抱き、銀の髪に指を滑らせる。
「カカシが指輪をくれた日・・・私達が結婚した日は、私の誕生日だったの・・・。」
涙の混ざった声で、がカカシの耳元にささやいた。
の背を撫でていたカカシの手が止まる。
今度はカカシが身を起こし、の背をシーツに押しつけ、
困った様な、泣きそうな表情で「ごめん。」との顔を見下ろす。
くすくすと笑い、「どうして謝るの?」と、は涙を滲ませた瞳で真っ直ぐにカカシを見つめ、
優しく宥める様にその頬に手を伸ばした。
「指輪を渡した後、俺がもっと優しい言葉を言えていれば、
君はあんなに悲しい涙を、誕生日の夜に流す事は無かったのに・・・!」
「カカシ・・私、嬉しいの。だって、これからは毎年結婚記念日と私の誕生日を一緒にお祝い出来るのよ?」
「・・・。」
「お祝い・・・してくれるでしょ?」
見た事のない、はにかんだ様な、見守る様な、妖艶で美しい笑顔を見せ、はカカシに問いかけた。
カカシは、色違いの瞳の両方にを焼き付ける。
愛しさが止まらない。
「ああ、もちろん。これからは毎年必ず・・・。この命尽きるまで。」
深く深く口付ける。
口付けの合間にが囁く。
「またひとつ、願い事、叶ったよ・・・。」
ふたりの吐息が、夜の帳に溶け出てゆく。
甘いささやきに星達は更に輝きを増し、闇が愛し合うふたりを優しく包む。
静寂の中に浮かぶ月は、安堵した様に少し赤みを帯びて、いつまでもいつまでもふたりを照らし続けた。
END
by緋桜
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よっしぃさんこと、緋桜さんより頂きました。
私のお誕生日プレゼントに♪
ありがとうございます!!!
いや、何回言っただろう(笑)
読み終わった後、ふわりと包み込まれるような、やさしい気持ちになりました。
ほろ苦さと、甘さと、いっぺんに味わえる素敵な作品でしょv
処女作なんですよ、物書きさんではないんです。
素晴らしいーーーー!!
私の処女作なんてねぇ・・・・・・;;(ENDLESSですが;;)
勿論、書き手への転向を進めていますが、首を縦には振ってくれません(笑)
勿体ないな〜〜。
前編、後編、二日に分けて送って頂いて、その二日間は作品の世界にダイブしておりました。
みなさんも今、心地良い読後感に包まれている事でしょう。
緋桜さん、本当にありがとうございました。
かえで
2007/11/18 サイトアップ